エンタープライズアジャイル採用事前アセスメント
ウォーターフォールで開発している企業が、全社的にアジャイル(エンタープライズアジャイル)を採用する場合、ウォーターフォールとアジャイルの違いは、ただ単に開発方法が違うだけでなく、価値観、理念、考え方が大幅に違うため、組織文化の大幅な変更が必要となります。それらは、計画順守より価値向上の変更を歓迎、活動は個人よりチーム重視、マネジメントはコントロールよりサポート重視、開発方法は全体一括開発よりも漸進的反復開発などです。
したがってアジャイルの採用を行う場合、経営トップの積極的な関与だけでなく、部門や個人の変革への抵抗の緩和、顧客の理解などさまざまなステークホルダーへの働きかけが重要です。そのために、事前に組織内のアジャイル導入に関する下地や条件が整っているのかをアセスメントし、課題を明確にし、その対応策を導き出し、準備して実施していくことが必要と考えます。 事前アセスメントは、組織、PMO、プロジェクトマネジャー、プロジェクトチームの各レベルを対象に実施し、その結果に基づいて課題を導き出し対応すると良いでしょう。以下の事前アセスメントは、2011年PMI北米大会の発表論文(1)を参考に作成しました。 1)組織レベル 組織レベルの準備状況を評価するために、以下のような質問に応えてアセスメントします。 ・組織は変革や創造性発揮にどの程度価値を置いているか(経営ビジョンにその内容が盛り込まれているか) ・プロジェクトポートフォリオマネジメントは実施できるか(プロジェクトの優先順位による選定や管理ができるか) ・組織はアジャイルの価値を理解しているか ・経営トップはアジャイルの価値を理解し、採用の協力が得られるか ・組織はアジャイル文化に抵抗はないか ・顧客はアジャイルの価値を理解しているか ・顧客はパートナーとして一緒に開発に参加することができるか ・組織は人事評価システムを個人評価からチーム評価に変えることができるか 2)PMOレベル PMOレベルの準備状況を評価するために、以下のような質問に答えてアセスメントします。 ・アジャイルの価値とフレームワークを理解しているか ・プロジェクトの優先順位の決める方法があるか ・ウォーターフォールとアジャイルとの位置づけをガイド出来るか ・ウォーターフォールのプロセス、ツール、テンプレートのどの部分がアジャイルのフレームワークで使えるか ・アジャイルのための新しいツール、テンプレート、プロセスを開発するのにどのくらいの時間と人が必要か ・プロジェクト成功の評価指標や測定方法は変える必要はないか ・プロジェクトの報告方法は従来とどのように変わるか ・アジャイルに必要なスキルのトレーニングは可能か ・アジャイルに合うプロジェクト、ウォーターフォールに合うプロジェクト、ハイブリッドに合うプロジェクトの選定基準はあるか 3)プロジェクトマネジャーレベル プロジェクトマネジャーレベルの準備状況を評価するために、以下のような質問に答えてアセスメントします。 ・アジャイルの価値とフレームワークを理解しているか ・計画に固執するよりは変更に価値を置くことができるか ・不確実性や変更が多いことに満足できるか ・コントロールからサポートへの役割の変化を受け入れられるか ・すべてのステークホルダーと必要な情報を共有するスキルと意志はあるか ・チームワークを推進するスキルと意志があるか ・アダプティブリーダーシップとサーバントリーダーシップスキルはあるか ・ファシリテーションスキルはあるか ・チームのモチベーションを高め、権限委譲し、仕事を任せる能力があるか ・顧客とのコラボレーションに焦点を当てることができるか 4)プロジェクトチームレベル プロジェクトチームレベルの準備状況を評価するために、以下のような質問に答えてアセスメントします。 ・アジャイルの価値とフレームワークを理解しているか ・チーム自身で意思決定できるか ・個人よりチームの価値を理解しているか ・多能工化に抵抗はないか ・顧客とのコラボレーションを理解しているか ・対話型コミュニケーションのスキルはあるか ・問題解決や創造性を発揮することができるか ・プロジェクトの適用分野の知識やツールに関する知識やスキルがあるか 以上 参考資料 (1) Nancy Y. Nee:“Agile: Still the Magic Bullet, or Do You Need a Blended Solution?”,PMI NA Congress paper (2011) |
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