デザイン思考とアジャイルの結合                    竹腰重徳 

 デザイン思考とアジャイルの進め方や考え方は、顧客価値指向、反復プロセス、組織横断型チームによる実行など非常に類似しており、両者は補完して利用できる。

 アジャイルは、顧客価値を実現するために、顧客のニーズや問題を明確にしてその解決策の要求機能をプロダクトバックログに入れて、優先度の高い要求機能から反復漸進的に製品やサービスを開発し、出荷するという進め方をする。しかしどのようにして顧客のニーズや問題を見つけ、その解決策の要求機能を導き出すかの方法は示されていない。この点をデザイン思考が補完する。デザイン思考を利用することにより、顧客のニーズや問題は何か、どのような機能を持った製品やサービスが顧客の問題を解決するのか、それは技術的に実現可能なのか、経済的に実現可能かを検証し、アジャイルのプロダクトバックログに情報を引き渡すのである。プロダクトイノベーションプロセスにおいて、デザイン思考で製品企画をし、その情報をもとにアジャイルで製品開発をするというイメージである。

 デザイン思考(1)は、人間を中心とするアプローチで、顧客の状況を直接つかむことで、顧客のニーズや問題を導き出す。共感マップ、カスタマージャーニーマップなどの手法が使われる。共感マップは、「どこに問題があるのか」「なぜ問題なのか」を明らかにするために、想定される顧客の行動を観察し、顧客にインタビューし、顧客に共感して、ニーズや問題を探る。「顧客が口に出して気になったことは何であろうか?」「顧客のどんな行動や態度が気になったか?」「顧客の考えていることは何であろうか?」「顧客はどのような感情を抱いているだろうか?」とインタビューの結果を共感マップにまとめ、顧客の本音やニーズを分析する。カストマージャーニーマップでは、顧客が製品やサービスを体験する間にたどるあらゆる段階について洞察を得るために、顧客が各段階で経験する感情、目的、製品やサービスとの相互作用などをマッピングし、顧客のニーズや問題を見つけ出す。このマップを作成することにより、顧客が製品やサービスを使用して自分の目的を達成する際にたどるプロセスでのニーズや問題を深く掘り下げることできる。

 このようにして得られた顧客のニーズや問題をもとに、ペルソナなどの手法を使って製品やサービスの実現へ向けてコンセプトを探求する。ペルソナは、現場の観測やインタビューから得られた情報から、顧客の行動、価値観、ニーズなどを可視化したもので、ペルソナを作成することで、対象とする顧客の本当の要求が明確になり、価値を持った製品やサービスのコンセプトの探求に生かせる。

 探求した価値のある個別のコンセプトを組み合わせてシステムレベルの解決策を構築する。ソリューションストーリーボードやソリューションロールプレイなどプロトタイプの手法が使われる。プロトタイプは作ることで考え、学び、また作り、考え、学び続けることによってイノベーションを引き起こす。ソリューションストーリーボードは、解決策の仕組みを説明するためにスケッチ(絵と言葉)をストーリーの順に並べ、解決策の各部分の働きを示すストーリーを作成したもので、解決策の顧客のフィードバックを得る。これらの手法は、解決策のプロトタイプを顧客に提示し、顧客のフィードバックを繰り返しながら解決策を精緻化しながら高速に反復構築していくやり方である。

 解決策が構築されたら、その解決策が実用的な視点で有効かどうかの検討を含め、製品やサービスの実現に向けた準備をする。ビジネスモデルジェネレーションなどの手法を使って、解決策が経済的実用的な視点で有効かどうかを明確にしていく。製品やサービスを運営する体制や仕組みについてデザインし、開発や運用を含めた事業計画(ビジネスケース)を作成する。事業計画がアジャイルへのインプットとなり、アジャイルによる製品やサービスの開発にスムーズに移行できる。アジャイルは、開発途中の環境の変化にも対応でき、顧客のニーズに合った製品やサービスを迅速に顧客に届けることができる。

 デザイン思考とアジャイルを結合した事例として、GEでは顧客のニーズに合った製品やサービスが開発期間を大幅に短縮して納品できたという効果が報告されている(2)。

参考資料
(1)Vijay Kumar,101 Design Mthods,Willey,2013
(2)ものづくりの未来を変えるGEの破壊力、日経ビジネス2014年12月22日号

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