アジャイルとTQM                                         竹腰重徳    

 トヨタは、1995年に、日本の競争力の源泉であったTQC(Total Quality Control:統合的品質管理)の考え方の再徹底を柱とし、商品やサービスの質はもちろん、仕事の質やマネジメントの質をも高めることを目的に、これまでのTQCの考え方に顧客志向と人間性尊重という視点をとりいれたTQM(Total Quality Management:総合品質マネジメント)として再整理し、浸透させていくことを決定し、それ以来TQMを基盤に経営マネジメントしている(1)。トヨタ生産方式(リーンマニュファクチャリング)の影響を大きく受けているアジャイルの価値観や原則は、TQMの影響を受けている(2)。

 TQM出現の歴史的背景をみると、1980年代に米国企業が競争力低下に悩み、その原因は、過去の奢りと品質の欠如にあると、米国の政・官・産・学が危機感を共通認識した。そして世界トップ企業200社を調査して成功している企業の共通項目を洗い出し、どのようにすれば競争力を強化できるかという観点で、TQMの理念が導き出された。その理念は、日本に品質管理を定着させたデミング賞で有名なデミング博士が導き出した以下に述べるような14のポイント(3)が基盤となっている。
  1. 競争力を保つため、製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る。
  2. 新たな経済時代に入り、新しい哲学を採用する。組織全体で品質追求、顧客第一。
  3. 最終検査に頼ることを止めて、品質を工程で作り込む。予防処置。
  4. 価格だけに基づいてサプライヤーは決めない。サプライヤーと長期のロイヤリティと信頼の関係を作ってトータルコストを最小化する。
  5. 製品やサービスの向上を常に心がける。品質と生産性の改善、コスト低減に努める。
  6. OJTで訓練する。
  7. リーダーシップを発揮する。マネジメントの役割は人々、機械、装置がうまく動くよう支援する。
  8. 恐怖を取り除く。会社のために効果的に働ける環境をつくる。
  9. 部門間の障壁を取り除く。組織横断型チームで対応する。
  10. ゼロ欠陥と生産性の新しいレベルのような矛盾する数値目標を与えない。
  11. 数値割り当てをメンバーに与えない。数値よりも品質。
  12. 技量のプライドを奪うような障害を取り除く。個人間の金銭の競争排除。
  13. 教育をしてスキル向上を図る。
  14. 変革をあらゆる人たちと成し遂げる。全員参加。

 米国政府は、1987年に、TQMを推進するためにTQMをうまく実施して優れたパフォーマンスをあげた企業や事業体を大統領が年一回表彰するマルコムボルドリッジ国家品質賞を設けた(4)。これが、米国企業の競争力強化に大変寄与し、1990年以降の米国の復活につながった要因の一つと考えられている。米国の成功を目の当たりにし、日本でも前述したようにトヨタをはじめとして多くの企業が、TQM導入に踏み切って効果を上げている。以下に述べるマルコムボルドリッジ国家品質賞の基本的価値観と概念(5)は、アジャイルの価値観と原則に影響を与えている。
 ・ビジョナリ・リーダーシップ
 ・顧客主導の卓越性
 ・組織と個人の学習
 ・社員とパートナーの尊重
 ・アジリティ
 ・将来重視
 ・イノベーションに向けたマネジメント
 ・事実に基づくマネジメント
 ・社会的責任
 ・結果重視と価値の創造
 ・システム的視点                         
                                                                           以上

参考資料
(1)トヨタ自動車75年史https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/company_information/management_and_finances/management/tqm/
explanation04.html
(2)Gharles G. Cobb, The project Manager’s Guide to Mastering Agile, Willy, 2015
(3) https://en.wikipedia.org/wiki/W._Edwards_Deming
(4) http://www.nist.gov/baldrige/index.cfm
(5)NIST, Baldrige National Quality Award, 2015

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