アジャイル導入事例(1)-Allegroグループ(E-コマース) 竹腰重徳
Allegroグループは、E-コマースのプラットフォーム(オークション、調達、価格比較、小売業、中古自動車、不動産、求職、決済など)を東欧25カ国に提供している企業である。現在グループ全体で150ものインターネットサービスを提供しているが、ビジネス規模はさらに急速に拡大を続けている。従業員の数も400人(2008年)の規模から5年で5000人(2013年)と10倍以上となっている。このような成長を支えるために、ソフト開発とそのスピードに強く注目している。速いマーケットの変化への対応が求められ、グループでは何を実現するかを決めるポートフォリオマネジメントと、決められたポートフォリオをどのように実現するかのプロジェクトマネジメント(PM)とプロダクトマネジメントに力をいれている。2013年PMIグローバルコングレスEUで発表された「Allegroグループのアジャイルへの道」(1)はITのユーザー企業がアジャイル導入の進め方について参考になると思い、アジャイル導入事例として取り上げた。
このグループでは、顧客価値を提供するベストなPM方法を探していたが、2008年段階では統一されたPM方法はなく各チームで独自の方法を使っていた。2009年に最初の公式なPMプロセス(ウォーターフォール)を採用し、その継続的改善により、2010年にはPMの成熟度がレベル4になった。このときに強く注目した点は、PMの仕組みと厳しい変更管理であったが、開発者には焦点を当てていなかった。ウォーターフォールを少しずつ改善していくやり方で、ある程度対応できたが、急拡大するビジネスに対応することが不可能となった。 そこで2011年6月ウォーターフォールからアジャイルに変革することを決定し、最初はPMOもほとんど関与せず、スクラムチームを立ち上げてスタートした。このチームは従来型の環境(ウォーターフォール)で行われたため、うまくいかなかった。他チームとのコミュニケーションがうまくいかなかったこと、他チームとの開発の同期が取れなかったこと、スプリントがただのミニウォーターフォールになっていたこと、顧客価値の観点で開発しなかったこと、開発メンバーを専任できなかったことなどが大きな理由である。 この失敗を糧に、ビジネスの代表者も加わり、新しいアジャイル導入戦略を打ち出し、最も大きな変革の一つとして全社にスクラムフレームワークを導入することが決まった。そしてビジネスとITのマネジメントが共同で変革推進チームを立上げ、1週間スプリントサイクルのスクラム手法を使ってプロジェクトを推進することにした。会社のあらゆるレベルの人たちにアジャイル教育を始め、会社のすべての人々に変革の重要性を認識させた。組織も機能別組織から組織横断型スクラムチーム組織に編成することにした。これにより、ビジネスとITの人々は一緒に席につきコミュニケーションやリソース可用性の問題は解消した。さらに人事評価制度について、チームワークの大切さを助長するために個人評価からチーム評価に変えた。また、開発は外部に委託しており、外注会社との契約は従来固定価格契約で問題であったが、2008年Sutherlandが提唱したアジャイルの要求変更を容易にする考えを取り入れた「変更は無料、作業の途中中止は有料」という条件付きの固定価格契約を基本とし、スプリント毎に製品出荷可能と契約終了の条項を追加修正した固定価格契約とT&M契約で行った。使用したツールは、従来からポートフォリオおよびプロジェクトマネジメントにJIRAを使用していたので、スクラムをサポートする機能を追加してJIRAを使った。アジャイル導入効果を明確にするためにウォーターフォールとの比較を行ったが、最初はウォーターフォールの方がよかったが、これは、最初は不慣れによる一時的にパフォーマンスは下がるというJ効果によるものであった。徐々に効果をあげ1年でチーム生産性は2倍から3倍、価値出荷のスピードは4倍から5倍、プロジェクトスタートを決定する速度は10倍となった。また次以降もスクラムを採用する社員が96%と高い支持を得ている。今後も手を緩めることなく、継続的改善を続けることによって開発の高い迅速性を追求しアジャイルを定着させると結んでいる。 この事例は、アジャイル導入に際し非常に参考になる内容を含んでいるが、ジョン・コッターが提唱する変革型リーダーシップの8段階変革プロセス(2)に沿ったものになっている。第1段階「危機感を生み出す」では、改善しながら利用していたウォーターフォールの方法では、拡大するビジネスに対応できないことをビジネスとITのマネジメントが認識し、アジャイル導入を決定した。第2段階「変革を推進する連帯チームを作る」では、最初はそのようなチームを作らずにスタートして失敗をしたが、その失敗を糧にビジネスとIT共同の専任の変革推進チームを作ってスタートし成功に導いた。第3段階「変革ビジョンと戦略を立てる」では、変革推進チームがアジャイル導入戦略を打ち出した。第4段階「変革のビジョンと戦略を周知徹底して賛同を得る」では、会社のあらゆるレベルの人たちにアジャイル教育を開始し、あらゆる人に変革の重要性を認識させた。第5段階「自発的な行動ができるよう障害を取り除く」では、組織を機能別組織から組織横断的スクラムチーム組織に編成しなおしたこと、外注との固定価格契約書の改訂、人事評価制度の改訂、ツールJIRAの採用などが挙げられる。第6段階「短期的な成果を生む」では、最初はJ効果により、成果が出なかったが、徐々に成果が上がり、1年でチームの生産性、価値の出荷スピード、プロジェクトスタートの意思決定のスピードが大幅に向上した。第7段階「成果を活かしてさらに変革を進める」と第8段階「変革を企業文化に根付かせる」では、成果を上げても手を緩めることなく、継続的改善を続けることにより開発の迅速性を高めアジャイル文化を定着させると結んでいる。 以上 参考資料 (1) Michal Raczka,The Allegro Group way to Agility,2013 PMI Global Congress, EU,2013 (2) 竹腰重徳、変革型リーダーシップによるアジャイル導入、PM学会誌、Vol.16 No.1、ppt.25-26、2014 |
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