アジャイル契約
1.固定価格契約
ウォーターフォールでよく使用される固定価格契約は、顧客(発注側)の要求は予め確定できるという前提で作られており、途中変更管理を厳しく行うことにより、要求変更や追加はほとんど発生しないと想定した契約形態である。しかし、開発を開始してから、顧客要求は予め明確であるという前提が崩れ、追加や変更がたびたび発生し、トラブルになるケースがある。顧客は、発注するという強い立場を利用して、無理な押しつけや追加の作業を強要したりする。さらに顧客には、開発側に一方的に任せる丸投げ体質も見られることもある。このように固定価格契約では、開発側に責任を押し付けることができるので、顧客にとってリスクが少なく、顧客はこの契約形態を好む。激変の不確定なビジネス環境にあって、アジャイルの必要性が叫ばれているにもかかわらず、固定価格契約が理由で、アジャイル普及の足かせになっているともいわれる。 2.アジャイル・プロジェクトに固定価格契約を適用すると・・・ アジャイル・プロジェクトに固定価格契約を適用すると、どうなるであろうか? 顧客要求が事前に確定でき、開発途中で要求変更や追加がほとんど発生しないプロジェクトの場合は、開発方式がウォーターフォールかアジャイルとかに関係なく固定価格契約は機能し、問題はない。しかし、要求の追加や変更が多く発生するプロジェクトでは、要求の詳細が契約時点までに確定できないため、開発側は以下のようなリスクが発生し、固定価格契約での契約は危険が高い。 ・詳細なスケジュールが確定できないので、スケジュールが遅延するリスク ・最終成果物の詳細や品質も、事前に確定することができないので、最終成果物の受け入れがスムーズにいかないリス ク ・開発工数の詳細見積もりが難しいので、契約金額をオーバーランするリスク 3.固定価格契約をベースにした固定価格契約更新版の提言 アジャイルの特徴に適した新たな契約書の開発の試みはグローバルにいろいろなされてきている(1)(2)。しかし、日本では固定価格契約は、依然としてIT業界における契約の標準であり続けると考えられるので、固定価格契約をベースにして、アジャイルの特徴が活かせるような固定価格契約更新版を開発することは有用と考えられる。 アジャイルの特徴は、以下のとおりである。 ・顧客要求の詳細は契約時点では確定できなくても対応できる -アジャイルでは、顧客要求に柔軟に対応できるため、顧客要求は、契約時点まで無理に詳細化しなくてよい。 つまり実装が始まる前までに、要求をJITに詳細化すればよい。 ・プロジェクトの期間中の顧客要求の変化に柔軟に対応できる -アジャイルでは、事前計画を守ることより顧客のビジネス価値向上のための変化への対応を優先する ・顧客と開発側との緊密な協力体制 -アジャイルでは、顧客との緊密な協調関係は必須である これらのアジャイルの特徴を生かす以下のような条項を考慮した固定価格契約更新版を提言する(2)(3)。 ・要求変更条項 -新しい要求は既存の優先順位の低い要求と置き換え可能 -要求の開発優先順位は途中変更可能 -追加の要求(置き換えしない場合)は費用を請求できる ・顧客との協調条項 -相互協力の義務付け(アジャイル規範の順守、顧客の責任{期間中常時プロジェクト参加、プロダクトバックログ管 理、連絡協議会の参加など}、開発側の責任{開発責任、プロジェクトの進捗の見える化、連絡協議会の参加など}) -頻繁な連絡協議会の開催(リリース計画、反復計画、デイリースタンドアップ、反復レビュー、反復レトロスペクティ ブ) ・漸進的に製品を出荷できる条項 -反復ごとの出荷が可能 ・顧客の途中プロジェクト終了条項 -顧客が残った要求を開発しても価値がないと判断すれば、プロジェクトを終了できる 顧客と開発側の信頼と協調を反映したアジャイル固定価格契約更新版が、アジャイル・プロジェクトの成功を導き、顧客と開発側ともにWin-Winをもたらすことが期待される。 以上 参考 (1) Tom Arbogast &,Agile Contracts Primer,www.agilecontracts.com,2012 (2) Mike Griffiths,PMI-ACP Exam Prep,RMC,2012 (3)IPA,日本におけるアジャイル開発に適した契約モデル案と事例,2012 寄稿 竹腰 重徳 |
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