集中力とマインドフルネス                     竹腰重徳 

  皆様は、仕事中に今朝見たニュースのこと、晩飯のこと、明日のスケジュールのことなど心がさまよい、今現在行っている仕事に集中できないことを多く経験していませんか。会議に集中せずに別のことを考えていて、会議の中味がわからなくなることはありませんか。私たちは、目の前の事柄に集中しようと思っても、さまざまな考えがいつの間にか、浮かんでくることは避けようがありません。会議に集中しようと思っても、「この後の予定は何であったであろうか」「こんなことしていて本当に意味があるのかな」と自然に別の考えが浮かんできたりします。目の前のことに集中していない心の状態、ぼんやりと無自覚に考えごとをしている状態、過去や未来に必要以上に思いを巡らせている状態のことをマインド・ワンダリング(Mind-Wandering)といい、心がさまよった状態をいいます。マインドフルネスは、心を今という瞬間に集中するという心のあり様のことですが、マインド・ワンダリングは、マインドフルネスの反対の状態で、心が集中できず、別のことを考え散漫になっている状態です。大抵の人は、今という瞬間に集中しようとしても、すぐ心がさまよった状態になり、今という瞬間に全力を尽くして集中することが難しいのです。

 心を今という瞬間に集中する能力を強化するにはどうしたらいいでしょうか。気づきの能力を上げるマインドフルネス瞑想による訓練が役に立ちます。筋トレと同じようにマインドフルネス瞑想を継続して実践することにより、わたしたちの心に物事に対する集中を高める能力を授けてくれます。マインドフルネス瞑想では、現在生じている何かの対象を決め、それに注意を向ける訓練をします。呼吸は、私たちは生きている間、息を吸ったり、吐いたりしていますので、対象としては最適です。自然な呼吸の感覚に注意を向けてしばらくすると、意識は呼吸から離れ、過去のことや未来のことを考えたりして心に思考が生じてきます。そのようなことが起きること自体は、自然なことで、悪いことはありません。訓練は、生じた思考に気づき、何の評価をせずに、今の瞬間に起こっている呼吸に意識を戻します。それの繰り返しが訓練になります(1)。

 マインドフルネス瞑想を始めた段階では、さまよい始めている思考をそのままの状態で意識を呼吸に戻すことが難しい場合があります。その時は「ラベリング」というテクニックを使う方法があります。ラベリングとはその時心に浮かんだ思考を単純な言葉にして心の中で唱えるのです。たとえば、呼吸している感覚から意識がさまよいだし、この退屈な瞑想の後で何をしようか、なんてことを考え始めたら、その内容を何の評価もせず、例えば「計画」とラベリングして、意識を呼吸に戻します。この瞑想が本当に集中力強化に役立つのであろうか、という考えが浮かんだら、何の評価もせず「雑念」とラベリングして呼吸に意識を戻します。ラベリングの本当の目的は、雑念によって注意がさまよっている状態を瞬間的に「止める」ことにあります。さまよい動いている思考をそのままの状態で呼吸に戻すことは至難の業ですが、一度ピタッと思考を止めてから呼吸に注意を向けなおすのは簡単なのです。ですから、ラベリングを行う際にはその言葉に集中しすぎるのではなく、あくまで注意をリセットするための助けとして用いるようにするのが大切です。逆に、ラベリングはこだわりすぎてしまうとそれに縛られてしまうこともあります。あくまでも集中が途切れた時のテクニックの一つです。

呼吸に何度も繰り返し意識を戻していくと、そのうち意識が安定し、心がさまよいだす回数が減ってき、物事に集中する能力が養われていきます。

参考資料
(1)熊野宏明、実践マインドフルネス、サンガ、2016

                         HOMEへ