ブッダの教えとマインドフルネス 竹腰重徳
2500年前、ブッダは、すべての人が避けることができない様々な悩みや苦に対して、「生きることは苦に満ちている。だから、生きることが苦なのは当たり前ともいえるのだ」と説いています。これだけ聞くと、何か救いのない話のようですが、ブッダが伝えたかったのは、むしろその解決法で、苦から解放され、幸せに生きるための方法を、ブッダの教えとして残されました
(1)。 ブッダの教えの出発点は、「一切皆苦(人生は思い通りにならない)」と知ることから始まります。なぜ苦が生まれてくるのでしょうか。ブッダはこの原因を、「無常(すべては移り変わる)」で、「無我(すべては繋がりの中、因果則基づいて変化している)」という真理にあると看破されました。そして、苦・無常・無我を正しく理解したうえで、世の中を捉えることができれば、あらゆる現象に一喜一憂することなく心が安らいだ状態になる、つまり苦から解放され幸せに生きることができるのだと説かれました。この教えが、「四諦八正道(したいはっしょうどう)」です。諦とは、諦めるではなく真理という意味です。 「四諦」には、「苦諦(くたい)」「集諦(じったい)」「滅諦(めったい)」「道諦(どうたい)」という4つの局面があります。「苦諦」とは、この世は苦であるという真理。苦とは生老病死の苦、愛する人と別れる苦、嫌な人に合う苦、求めるものが得られない苦、身体と心が生み出す苦です。「集諦」とは、その苦を生み出す原因があるという真理。それは自分自身の心が起こしている煩悩だと知ることです。代表的な煩悩で最も深刻なものを「三毒」と言い、貪(欲望をいだくこと)、瞋(憎み怒ること)、痴(無明-ありのままに捉えることができない)です。ブッダはそのなかで一番のおおもとになる煩悩が、無明と説いています。無明とは、智慧がないことです。真理を知らないことです。「滅諦」とは、苦の原因である煩悩を消滅させることで苦が消え、心が安らぎに至るという真理。「道諦」とは、心を安らぎに導く具体的な実践方法は、「八正道」を実践するという真理。 「八正道」とは、「正見(しょうけん):世の中の真理(苦、無常、無我)を理解し、現象を正しく見ること」、「正思惟(しょうしゆい):煩悩に囚われた余計な主観を挟まずに正しい思考をする」、「正語(しょうご):正しい言葉をつかう」、「正業(しょうごう):正しい行いをする」、「正命(しょうみょう):健全に生活の糧を得る」、「正精進(しょうしょうじん):根気強く努力をする」、「正念(しょうねん):今起こっていることに注意を向けて気づく」「正定(しょうじょう):正しい集中をする」の八つの行動を行うことが、苦から解放されるための修行と説かれました(2)。そしてブッダは、苦の解決を神秘な力に頼らず、あくまでも自分の問題としてとらえ、自己改革の中に解決策を求めよと説かれました。つまり、教えを信仰するのではなく自己鍛錬を強調されました(1)。 ブッダが教えられた気づきの瞑想と慈悲の瞑想を基とするマインドフルネスの実践は、八正道を実行するための訓練です。マインドフルネスの実践を辛抱強く続けていくことにより、世の中のあらゆるものが変化するものであると知り、この世の全てはお互いに関係しあい、つながっているということ、全てが原因と結果という因果則で成り立つという真理を理解できるようになります。その結果、解決のための智慧が現れて苦から解放され幸せに生きることができるのです。その効果は脳科学的に実証されています。 参考資料 (1) 佐々木閑、真理のことば、NHK出版、2012 (2) バンテ・H・グラナタナ、エイトマインドフルステップス、出村佳子訳、サンガ |
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