デフォルト・モード・ネットワークとマインドフルネス           竹腰重徳 

 何か課題に取り組んで脳が疲れてきたら、脳を休めるために「何もしないでボーっとする」と答える人が多くいます。従来の脳科学では、何もしないでボーっとするときは、意味のある脳の活動は行われていないと考えられていて、あまり注目されていませんでした。しかし最近の脳機能のイメージング研究により、驚くべき事実が明らかになりました。人間が代謝などに使うエネルギーは1日約2000kcalで、そのうち脳が使うエネルギーは20%(重量は2-3%)の400kcalとされ、脳がたくさんのエネルギーを使っています。この400kcalのエネルギーのうち、本を読んだり、仕事をしたり、歯を磨いたり意識的な活動に使われるエネルギー量はなんと5%くらいしかないといわれています。また脳が使うエネルギーの20%は脳の細胞の維持、修復に使われています。その残りの75%は、何もしないでぼんやりしている時に大量のエネルギーを使っています。この時、内側前頭前野、後帯状皮質、海馬などの複数の離れた脳領域が、同期・協調して働きネットワークでつながって活動することが観測されています。ワシントン大学のマーカス・レイクル教授は、このネットワークをデフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:DMN)と命名しました。DMNは、心がさまよっているときに働くネットワークですが、脳に次々雑念が湧いてくる時に活性化するほか、これから起こりうる出来事に備えるため、さまざまな脳領域の活動を統括するのに重要な役割を果たしていると考えられています(1)。

 仕事や遊び、考え事もなく何もしないで、ボーとしている時の脳の活動は、気がついたら過去の出来事の後悔や未来の不安などネガティブなことを無意識に次々と連想させてしまい、考えても意味のないことを、繰り返し続ける思考の堂々巡りから抜け出せず、心も身体も疲れ果ててしまうことがあります。この場合は脳の疲労をどんどん蓄積させていることが指摘されています。気がつくとあれこれと物思いにふけってしまい、雑念が次々と湧いてきて、気持ちが囚われていくという状態です。こんな時は、いくらリフレッシュしても疲れは取り切れず、スッキリしません。意識して考えることをしているわけでないので、自分も非効率な脳の使い方をし続けていることに気づいていません。脳は休まず活動し続けるわけですから、脳の疲れはたまる一方です。その結果、脳は常にイライラするようになり、集中力の衰え、注意散漫、記憶力減退、感情コントルール不能に陥ります。この原因はDMNの暴走が起こるからです。この暴走を食い止めるようにする方法があります。それがマインドフルネスの実践です(2)。心が今何か課題に取り組んでいるときに、課題と関係のないことに注意がそれたら、それたことに気づき、何もしないで今の課題に注意を向けなおすよう心の訓練をするのです。

マインドフルネスの実践により、DMNの暴走が抑えられ、無駄な脳エネルギーの消費がなくなり、脳の休息につながりますし、脳意識下のレベルの古い記憶を掘り起こし、過去、現在、未来間を行き来し、さまざまなアイデアを再結合させ、創造性を発揮できるようになります。マサチューセッツ大学医学部マインドフルネスセンター責任者のジャドソン・ブルワー博士は、そのことを脳科学的に実証しています。マインドフルネス瞑想、慈悲の瞑想(思いやりを育む瞑想)を実践しているときの脳活動を測定し、DMNを構成する部位(内側前頭前野、後帯状皮質)の活動が見事に低下しているのを観察しています(3)。

参考資料
(1) NHKサイエンスZERO、”ぼんやり”に潜む謎の脳活動、2014
(2) 多賀谷亮、最高の脳の休息法、ダイアモンド社、2017
(3) Judson Brewer、Meditation Experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity、Proceedings of the National Academy of science、2011


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