「感情の知性」とマインドフルネス                   竹腰重徳

  不確定で急速に変化する環境に対応して、企業のアジャイルに対する期待が高まっています。アジャイルでは、開発チームが、顧客と協力し、創造性を発揮し、自律的な意思決定をしながら、顧客価値を実現していきます。そのためプロジェクト・マネジャー(アジャイル・リーダー)は、チーム内のオープンなコミュニケーションをはかり、信頼関係を築き、メンバーが能力をフルに発揮し、協力して自律的に目標を達成するように支援します。アジャイル・リーダーには、開発チームがこの人なら信頼でき、一緒に仕事がしたいと感じさせる次のような「 感情の知性(Emotional Intelligence)」の能力を持つことが求められます。

 ・自己認識-今この瞬間に生じた自分の感情や思考を理解でき、自分を客観的に評価でき、確信をもって行動する能力
 ・自己コントロール-自分の破壊的感情や衝動をうまくコントロールでき、厳しい状況下でも冷静に状況を捉え、適切な行動がとれる能力
 ・共感-他者にオープンに耳を傾け,的確なメッセージを読み取り、他者の視点で理解できる能力
 ・人間関係管理-他者との関係を良好に保ち、他者から信頼されて協力を得る能力

 「感情の知性」は、生まれつきの固定した能力ではなく、訓練よって向上する能力で、マインドフルネスが大変有効です。マインドフルネスの訓練が「感情の知性」の能力向上に役立つことは脳科学的に実証されていますし、グーグルをはじめとして多くの先進的企業で採用され、大きな成果を上げています(1)。
 
 自己認識は、今現在、自分の内外で起こっていることを、正確に知覚し、心に発生している感情や思考に気づく能力で、リーダーに必須のものです。自己認識により、現在起こっている自分の感情や思考を正確に知ることができ、起こっている課題に冷静に賢く立ち向かうことができるのです。起こっている内外の現象をあるがままに見て気づくのは大変難しいのですが、今この瞬間の現象に集中し、評価せずに理解して気づく能力を鍛えるマインドフルネスの訓練が、自己認識の能力を上げます。

 私たちは、緊張しているときやストレスを感じているときは、感情のコントロールがうまくいかなくなり、それにすぐ反応してしまいます。例えば、怒りを感じたら、カッとなって言わなくていことをつい口走ったりしますが、すぐに反応せずに、「自分は今怒りを感じている」と自己認識して間をとることができると、前頭前皮質が扁桃体に落ち着くよう指示を出し、ある程度気持ちが落ち着きます。このように自己の感情を客観視することにより、自分を失うことなく適切な判断ができるようになります。マインドフルネスの訓練が自己コントロールする能力を育んでくれます。

 共感は、他の人の感情や思考を読み取ることができ、他の人の立場に立って何故そのような感情や思考をしているかを理解する能力です。リーダーにとって共感は他者とのつながりを育むための素晴らしいツールです。マインドフルネスを訓練により自分自身の気持ちをよりよく理解することで、他の人の気持ちも理解し始めることができ、他の人に共感できるようになります。

 人間関係管理とは、他の人の感情に共感した後、他の人に役に立ちたいという思いやりの気持ちをもって行動を起こす能力です。思いやりの気持ちで対応すれば、他の人から信頼され、自然とついてきてくれ、適切な方向に導いていくことができます。マインドフルネスを訓練すれば、思いやりの能力が強化され、人間関係管理の能力が強化されます。
   
参考文献
(1)チャディ・メン・タン、サーチ・インサイド・ユアセルフ、英治出版、2016


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