感情の知性を向上させるマインドフルネス                竹腰重徳

  感情の知性(Emotional Intelligence)とは、今現在起こっている自分の身体感覚や感情や思考に気づいて冷静な判断をし、不快や怒りなどの感情を自己コントロールし、他者の感情や状況を共感的に感じ取り、他者との良好な人間関係を築いて協働して目標を達成することができる能力です。感情の知性は、リーダーシップの基盤となるものです。

 感情の知性の世界的ベストセラー作家ダニエル・ゴールマンは、感情の知性を自己認識、自己管理、社会的認識、人間関係管理の4つの機能に分類しています。

(1)自己認識とは、今現在、自分の内外で起こっている現象を、正確に知覚し、感情や思考に気づき、冷静に適切な判断ができる機能で、感情の知性の中で最も重要で出発点となるものです。
(2)自己管理とは、不安や怒りや恐怖などの感情を自己コントロールでき、目標に挫折したときでも可能性を捨てず、自分自身を励ますことのできる機能です。
(3)社会的認識とは、他人の感情や状況を共感的に感じ取る機能です。
(4)人間関係管理とは、自分や他者の感情や動機を理解し、他者と協働して目標を達成する機能です。

 ゴールマンは、感情の知性を高める方法について、自らの体験や脳科学者達との共同研究の結果を踏まえ、マインドフルネスの訓練が最良であると述べています。マインドフルネスの訓練では、今この瞬間に発生している身体感覚や心に意図的に注意を向けて観察し、評価や判断をしないで受入れていきます。途中で心がマインドワンダリングになり、注意を向けていた身体感覚や心から逸れて別のことを考え始めたらそれに気づき、再び注意を向けていた身体感覚や心に優しく注意を戻すということを繰り返し実践します。マインドフルネスの訓練が、脳のいろいろな部位に良い影響を与え、感情の知性の各機能が向上します。

(1) 自己認識
マインドフルネスの訓練は、自分の身体と心の状態を感知する脳の島皮質(とうひしつ)と合理的な思考と認知を司る前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ)を強化し、ネガティブ感情から生じる瞬時の反応をする扁桃体(へんとうたい)の活動を弱めます。これらがマインドワンダリングを減らし、物事をあるがままに気づく能力を高めます。そして今発生している事柄に気づくことにより瞬間的に反応するのでなく、一旦間をおいて適切な判断で対応できるようになります。間がおかれると自分自身を客観的に観察する余地が生まれ、合理的な思考や判断ができるようになります。
(2)自己管理
マインドフルネスの訓練は、前頭前皮質を強化し、扁桃体の活動を弱めてくれます。恐怖や不安や怒りは、扁桃体で引き起こされ、前頭前皮質は合理的な思考と認知を司っています。扁桃体の活動を弱めることで恐怖や不安を減らし、前頭前皮質が活性化することで合理的な思考や判断が行われ、自制心や動機付けの能力を向上させることができます。
(3)社会的認識
 マインドフルネスの訓練は、顔や身体の認識に重要な役割を果たす脳の紡錘状回(ぼうすいじょうかい)と自分と他者の身体と心の状態を感知する島皮質を活性化します。紡錘状回と島皮質の活性化により、他者の感情や状況をより共感的に認識できるようになります。
(4)人間関係管理
 マインドフルネスの訓練が、自分の感情により気づき、自己コントロールでき、他者の感情により共感できるようにしてくれます。これらの統合された機能から他者とのコミュニケーションやチームワークなどが向上し、協働で目標を達成する能力が高まります。

 マインドフルネスの実践により、気づきと認知機能が上がり、他者との共感やチームワークなどが向上し、リーダーシップに大変有用な基盤をアップしてくれます。マインドフルネスの訓練は、効果が脳科学的に実証されており、グーグル、アップル、アマゾン、マイクロソフト、インテルなど多くのイノベーティブ企業に導入されています。

参考資料
(1)ダニエル・ゴールマン、FOCUS集中力、土屋京子訳、日経ビジネス人文庫、2017
(2)https://members.nationalwellness.org/blogpost/1644820/313162/How-Meditation-Increases-Emotional-Intelligence
(3)リチャード・デビッドソン/シャロン・ベグリー、脳には、自分を変える「6つの力」がある、茂木健一訳、三笠書房、2013



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