EI(Emotional Intelligence:感情の知性)                    竹腰重徳 

 アジャイルでは、顧客価値の迅速な実現のため、開発チームが自律的に意思決定でき、創造的に発想でき、自由闊達に活動できるような環境をつくることが必要である。そのためにアジャイルプロジェクトマネジャーは,ウォーターフォールのように詳細な計画を事前に作り、それを開発チームに細かく指示して管理していくやり方ではなく、チームのやる気を引き出し、彼らの創造力を最大限発揮させ、 彼らが協力し合い、チームとして自律的に目標が達成できるよう支援する。チームメンバーに人事的権限のないアジャイルプロジェクトマネジャーが、このような役割を効果的に果たすには、開発チームがこの人なら信頼でき、この人と一緒に仕事がしたいと感じさせる高いレベルのEI(Emotional Intelligence:感情の知性)を持つ必要がある。

 ダニエル・ゴールマンは、EIを「自己認識」「自己管理」「社会的認識」「人間関係管理」の4つの能力に分類している(1)。
 「自己認識」とは、五感で認知した刺激により生じた自分の感情を理解でき、自分を客観的に評価でき、確信をもって行動する能力で、「感情の自己認識」「正確な自己評価」「自己確信」の能力に分類される。「感情の自己認識」とは,現在の自分の感情を意識的に読み取り、なぜその感情が起こっているかを理解し、感情と行動・言動の関係を理解し、自分の感情について率直に語る能力である.「正確な自己評価」とは、自分の強さ弱さを正しく評価し、経験から学び、フィードバックや新しい見方を素直に受け入れる能力である。「自己確信」とは、自分自身の考えを確信して表明し、自らの存在感を示して行動する能力である。

 「自己管理」とは、自分の破壊的感情や衝動を管理し、明るく前向きに共鳴させる能力で、「感情の自己コントロール」「誠実」「適応」「達成意欲」「率先垂範」「楽観」の能力に分類される。「感情の自己コントロール」とは、衝動的感情や苦悩の感情をうまくコントロールし、厳しい状況でもクールにポジティブに捉らえて冷静に行動する能力である。「誠実」とは,自己に厳しく,自己に責任を持ち,まじめで心がこもった行動する能力である。「適応」とは、変化に柔軟に対応する能力である。「達成意欲」とは、グループまたは組織の目標を自らの目標を適合させ,達成することに強い意欲を持つ能力である。「率先垂範」とは、チャンスを自ら積極的に作り出し、いままでにない独創性に富む方法で相手を動かす能力である。「楽観」とは、失敗を恐れず、成功を信じて、成功に向かって行動をする能力である。

 「社会的認識」とは、相手の感情、ニーズ、関心を共感的に理解し、組織の文化的政治的な環境を正確に読み取り、適切に対応する能力で、「共感」「組織認識」「サービス志向」の能力に分類される。「共感」とは、相手の話をよく傾聴し、共感的に感情を読み取ることができ、相手の視点で考えやニーズを理解する能力である。「組織認識」とは、組織の文化や価値観、暗黙のルール、政治的な力関係、場の雰囲気を読み取る能力である。「サービス志向」とは、相手のニーズを理解し、満足させるよう対応する能力である。
「人間関係管理」とは、相手との関係を良好に保ち、相手から信頼され、協力を得る力で、「ビジョンのあるリーダーシップ」「育成」「影響力」「コミュニケーション」「コンフリクト・マネジメント」「チームワークと協調」の能力に分類される。「ビジョンのあるリーダーシップ」とは、ビジョンを明確にし,相手を奮い立たせ導いていく能力である。「育成」とは、相手の能力開発ニーズを理解し、フィードバックや指導によって相手を育成する能力である。「影響力」とは、権力ではなく効果的な説得方法で相手を自主的に動かす能力である。「コミュニケーション」とは、相手にオープンに耳を傾け、説得力のあるメッセージを伝える能力である。「コンフリクト・マネジメント」とは、意見不一致をWin-Winになるよう解決する能力である。「チームワークと協調」とは、共通のゴールに向けて一緒に仕事を進める能力である。

 なお、IQ(知能指数)は、生まれつきの要素が多いといわれているのに対して、EIは、訓練により能力が確実に向上することが実証されており、アジャイルの日常活動の中で学習と実践を通じてそのスキルを高めることができる。

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