共感とマインドフルネス                     竹腰重徳 

  共感(Empathy)とは、他人の思考や感情を読み取ることができ、他人の立場に立ち、何故他人がそのような感情や思考を持っているかを理解した上で支援を提供する能力で、リーダーシップを発揮するために最も重要な能力のひとつです。脳科学の研究で、高い共感能力を持った人は、高いビジネスパフォーマンスをあげられることが実証されています(1)。

 ビジネスにおける共感の適用例として、デザイン思考によるイノベーション実現があります。デザイン思考は、人間中心設計といわれ、ユーザーを徹底的に観察し、プロトタイプを作りユーザーに見せながら、ユーザーの真のニーズの実現を目指します。人間中心設計とは、マーケットリサーチなどからユーザーのニーズを引き出すのではなく、「どこに問題があるのか」「なぜ問題なのか」を明らかにするために、ユーザーを直接観察し、ユーザーとの高い共感を通じて潜在的な問題を探る点に特徴があります。ユーザーの行動や気持ち、想い、考え方など、無意識レベルまで深く入り込み、潜在ニーズまで見出すため、観察し、プロトタイプを作りそれを見せながら真のニーズを見つけ出すのです。

 デザイン思考の進め方は、創造的なアイデアを引き出すために、個人でなくチームで進めることが前提です。チームとしての多様性が、新たな発見やアイデアを生み、より創造性のあるものを生み出すという考えがベースになっています。異質な者同士が、問題意識や目的を共有し、それぞれが影響し合って知恵を出し合い、チームで協調して創造的なアイデアを出しながら解決に導くのです。チームが協調して仕事を進めるために、各メンバーが優れた共感能力を使って、お互いがよく理解し合いながら進めていきます。このようにチームで仕事をしていく上でも、共感は重要で必須の能力といえます。

 一人ひとりの共感能力は、イノベーションの実現やビジネスパフォーマンスに重大な影響を及ぼしますので、いかに個々の共感能力を向上していくかが重要となります。幸い、共感は、生まれつき固定された能力ではなく、日々のトレーニングで強化できることがわかっています。そのトレーニングの一つで、効果が実証されているのが、ブッダの2500年前の教え「出息入息に関する気づきの経」をベースにしたマインドフルネス瞑想の実践です。この瞑想方法は、呼吸を使って、心を「今、この瞬間」に、自分の内外に起こっていることに注意を向け、ありのままに気づく能力を強化するもので、共感能力強化にも役立つことが、神経科学の研究結果で示されています。例えば、ノースイースターン大学、ハーバード大学、マサチューセッツジェネラル病院の研究チームは8週間のマインドフルネス瞑想が共感能力向上に役立ったと結論づけています(2)。さらにマサチューセッツジェネラル病院の神経学者のサラ・レーザーは、マインドフレネス瞑想の実践者が共感に関連した島皮質の部分が厚くなっていることを示しました(2)。島皮質は、身体的な感覚を経験し、認識する能力に関わっていますが、共感におおいに関係があることがわかっています(3)。

参考資料
((1)William A.Todd et al.、Empathy in the Workplace、Center for Creative Leadership、2007
(2)Matt Tenny et al.、the mindfulnessEdge、Willy、2016
(3)Tania Singer et al.、The neural basis of empathy、Nueroscience、2012


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