グーグルのマインドセット                                竹腰重徳 

 グーグルを中核事業とする持ち株会社アルファベットの株価が、2月1日の時間外取引で上昇し、時価総額が米アップルを上回り瞬間世界一となった(9月現在第2位)。グーグルがなぜ時価総額が短期間の間に世界1、2を争うまでになったのか、どんな働き方をしているのか興味を持ち、グーグル会長エリック・シュミットの著書「How Google Works:私たちの働き方とマネジメント」(1)、人事担当副社長ラズロ・ボックの著書「ワーク・ルールズ」(2)を調査した。

エリック・シュミットは「イノベーションとは、『新しく、意外性があり、劇的に有用であるアイデアを生み出し、実行に移すこと』と述べ、劇的な有用な例として自動運転車の開発プロジェクトをあげている。さらに、グーグルは毎年、検索エンジンに500件もの改良を加えているが、その一つひとつは、どれも新しく意外性があり有用であるが、『劇的に有用』というには無理がある。ただすべてを一つにまとめると『劇的に有用』になる。グーグルの検索エンジンは毎年、500件の改良の力が組み合わさった結果、劇的な変化を遂げている。イノベーションを包括的に定義すると『それ自体でとびきり斬新で画期的なモノ』だけがイノベーションではないという考え方はとても大切である。イノベーションは本社から独立した少数精鋭の先鋭部署だけの専売特許ではなく、誰にでもチャンスのあるという考え方につながるからだ。誕生からすでに15年を経たグーグルの検索エンジンを担当するチームも、自動運転車を開発するプロジェクトXのチームと同じくらいイノベ―ティブな取り組みをしている。このような包括的な定義の下では、誰でも『とびきり斬新で画期的なモノ』を生み出すチャンスを手にしていることになる」と述べている。

 そして、彼は、全社員が創造性を最大限引き出す組織運営に徹底的にこだわり、イノベーションと変革を起こし続けることを目指して成長し続けるために、以下のようなマインドセットで日常活動を実施していると述べている。

・社員(Googler)がグーグルを偉大にする
 グーグルにとって社員こそが一番のリソースと考え、チームによる協働、迅速な行動、オープンなコミュニケーションができる社員がいるからこそ、グーグルの製品やサービスを改革できる

・ユーザーに焦点を絞る
「ユーザーに役に立つことは、グーグルの活動の中心であり、ナンバーワン・プライオリティである」。ユーザーに焦点を絞れば、後は全部ついてくる。「ユーザー」とは、プロダクトを使う人々を指す。一方「顧客」とはグーグルの広告枠を買ってくれたり、技術ライセンスの契約を結んでくれる企業である。両者の対立が起きた場合、グーグルは常にユーザーの側に立つ。

・発想は大きく
  「10倍のスケールで考えよう」。発想を漸進的でなく大きくするメリットはゼロからの発想が起こり、創造的なアイデアを導き出す。また大きな賭けをするほど会社としては失敗が許されなく皆が協力するので成功のチャンスが大きくなる。

・高い業務目標(OKR)を設定する
  OKRとは「Objectives & Key Results」の略で、会社、チーム、個人の「目標(Objectives)」と「結果(Key Results)」を管理することで、戦略目標を測定可能な指標と組み合わせて使う目標管理ツールである。業務目標は達成に相当の努力が必要な目標(ストレッチ目標)を設定して活動する。

・世に出してから手直しする
  製品・サービスを作り、出荷し、市場の反応を見てから、改善策を考え、再び出荷する。最初から完璧を目指すのでなく、とりあえず外に出してフィードバックを受けつつ、改良し完成度を高めていく。

・よい失敗をする
  イノベーションを生み出すには、よい失敗の仕方を身に着ける。失敗から学ぶ。次の試みに役立つような貴重な技術、ユーザー、市場の理解が得られる。アイデアを潰すのでなく形を変える。世界的イノベーションの多くは全く用途の異なるものから生まれる。

・アイデアはあらゆるところから生まれる
  環境を整えればどの社員も斬新的なアイデアを生み出す。社員の意見を聞き、その意見を活用し、社員のモラルを高めながらイノベーションにつながるチャレンジングな環境を整備することにより、新しいアイデアが生まれる。

 全社員の創造性を最大限引き出し、イノベーションを起こす組織に変革するために、「グーグルのマインドセット」は非常に参考になると思われる。
                                                                          
参考資料
(1) エリック・シュミット他、How Google Works-私たちの働き方とマネジメント、日経新聞、2014
(2) ラズロ・ボック、ワーク・ルールズ、東洋経済、2016
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