幸福度とマインドフルネス                            竹腰重徳 

 マインドフルネス実践の普及に最も貢献した研究者の一人であり、この分野の第一人者であるマサチューセッツ大学医学校教授のジョン・カバットジンは、マインドフルネスを「意図的に、今この瞬間に、評価や判断とは無縁の形で注意を払うこと」と定義しています。そして、「私たちが知らなければならないのは、誰もが持っているかけがえのない今という瞬間だけを、知覚し、学び、行動し、変え、癒さなければなりません。だからこそ『瞬間瞬間を意識する』ことがとても大切なのです。瞬間瞬間に注意を集中し、私たちに与えられているのは『今』という瞬間だけだということがわかれば、意識も洞察力も、そして健康も、自然に充実していく」と述べています。つまりマインドフルネスであることは私たちの暮らしの中にある幸福に気づかせてくれます。

 しかし、現実には、ほとんどの人が多くの時間をその場に十分に存在することを意識せずに過ごしています。不安、恐れ、怒り、後悔の念などに囚われ、マインドフルネスになれずにいます。身体はここにあっても、心はここにいなくて、過去や未来に囚われてしまっています。心が、「今この瞬間」に起こっていることに注意を集中しないで、目の前の課題とは全く関係のないことを考えて、さまよう状態のことをマインド・ワンダリングといいます。マインド・ワンダリングでは、心が不快なことや中立的なことに向かう傾向が強く、人々の気分を下げ幸福度が下がるという実証データがあります。

 これを科学的なデータによって立証したのが、ハーバード大学のマット・キングスワース博士です。彼はiPhoneを使って「Track Your Happiness」という幸福度追跡アプリを開発して、人々のその瞬間瞬間の出来事の幸福度への影響を分析することに成功しました。このアプリをとおして、2009年以降、15,000以上の人々からリアルタイムで、その瞬間何をしているか、マインド・ワンダリングの質問(現在していること以外のことを考えているかどうか)、今の気持ちは快、不快、中立(どちらでもない)か、のデータが得られました。その概要は、2011年11月のTEDxCambridgeの動画で公開されていますが、以下の通りです(1)。

・多くの人々がマインド・ワンダリングになっている
 +46.9%の時間がマインド・ワンダリング(約半分の時間は、現在の活動に心が向いかず、気が散っている)
・活動別のマインド・ワンダリング(その瞬間の活動に集中せず、うわの空になっている)の時間
 +シャワーを浴びているか歯を磨いている      65%
 +仕事をしている                     50%
 +エクササイズをしている                40%
 +セックスしている                    10%
・マインド・ワンダリングは幸福度を下げる
 +不快なマインド・ワンダリング(不安・後悔)        幸福度は非常に低い
 +中立的なマインド・ワンダリング               幸福度は低い
 +心地よいマインド・ワンダリング(明るい未来)       幸福度は高い
 +マインド・ワンダリングをしていない(マインドフルネス) 幸福度は高い

 世界的に著名な心理学者・脳神経科学者であるリチャード・デビッドソン教授も、幸せになるための条件の一つとして、マインドフルネスであること(今ここに注意を向け、マインド・ワンダリングでない状態)をすすめています(2)。移り変わる瞬間瞬間の中、自分の思考や感情や身体感覚と自分を取り巻く環境に注意を集中して気づきの状態を維持するようにすることが幸福に通じるのです。マインドフルネスの実践をしましょう。

参考資料
(1)Matt Killingsworth,Does Mind-Wandering Make you Unhappy?,GGSCMagazine,2013
(2)Richard Davidson,The Four Constituents of Well-Being,Viedo,GGSCMagazine,2016


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