傾聴とマインドフルネス                     竹腰重徳 

 「リーダーは、夢やビジョンを実現するために、支配的な言動によってチームメンバーを動かすのでなく、まず、チームメンバーに尽くす、奉仕するといった思いやりの気持を先行させて行動すると、多くのチームメンバーから信頼され、喜んでついてきてくれ、成功へと導くことができる」というのが、サーバント・リーダーシップのコンセプトです。チームメンバーに尽くす、奉仕するといった思いやりの気持で行動するために、一人ひとりの価値観や要望をしっかり理解して、どうすれば彼らの役立てるかを考えて行動するには、まず相手の声を傾聴することが重要であるとサーバント・リーダーシップの創始者のロバート・グリーンリーフは述べています(1)。私たちは、チームを組んで仕事することが多いので、サーバント・リーダーシップが求められますが、傾聴は重要で必要な能力といえます。

 傾聴の「聴」という文字は、「耳」「十」「目」「心」の文字で構成され、耳だけでなく目や心を使うことを表しています。耳を使って話を聴く、目を使って顔の表情やしぐさまで含めて聴く、心の扉を開いて共感して聴くなど、聴くは非常に複雑なプロセスです。本当に聴くためには、心が注意散漫になることを克服し、ただ全身全霊を相手に注ぐことが求められます。良い聴き方とは、話の内容はもちろん、そこにある感情も含めて意味全体を聴くことです。言葉に現れない苦しみが内部に閉じ込められているかもしれません。心と心で聴くことによって、私たちは相手のニーズや要望、さらには苦しみや怒りも認識できるようになります。

 しかし、傾聴することは非常に難しいのです。それは、私たちには一般的に以下に述べるような習性があるからです。①人間は本来自己中心的で、自分の考えが正しいと思って聞いています。②自分は他人より優れていると思っているので、他人が自分の言うことを聞くべきだと思っています。③私たちは誰でも個人的な先入観や偏見があり、なんらかのフィルターをかけ、メッセージを歪め、間違って受け取ることがあります。④今この瞬間に、相手に注意を向けず、心が散漫になり、うわの空でコミュニケーションをしている状況も発生します。結局、さまざまな要因で相手が本当に言いたいことや気持ちを正しく認識できないことが多く発生します。

 傾聴を正しく行うには、この今瞬間に相手に起こっていること、言葉、身振り手振り、顔の表情、声の調子、感情などに全身全霊で相手に集中し注意を向け、相手の視点に立ち、自分の価値判断をはさまず、ありのままを受け入れて聴けるようにすることです。そうすることで相手の本当に言いたいことが理解できるのです。このような傾聴力を強化する方法の一つが、マインドフルネス実践方法です(2)。マインドフルネス実践方法は、過去や未来のことでなく、今この瞬間に自分の内外に起こっていることに注意を向け、自分の体験の価値判断をすることなく受け入れ、客観的にありのままに気づくように、心を訓練するものです。このマインドフルネスの訓練により、以下のような傾聴力の強化につながります。
① 今この瞬間に相手に注意して聴く
② 相手のすべての感覚(目、声の調子、身体の動き、表情)に気づきながら聴く
③ 感情に気づきながら聴く
④ 相手の発言を受容して聴く(まずは賛成も反対の価値判断をしないで素直に聴く)
⑤ 相手の視点に立ち共感しながら聴く

参考資料
(1)Robert K. Greenleaf,The Servant as Leader, Greenleaf Center,1970
(2)Jessica Zisa, Listen to serve: Servant Leadership and the practice of effective listening, Greenleaf Center, 2017

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