脳科学とマインドフルネス                     竹腰重徳 

  世界的に著名な心理学者・脳神経科学者であるリチャード・デビッドソンは、「脳」と「感情」と「行動」のつながりを研究する第一人者です。現在はウィスコンシン大学マディソン校の教授で「健康な心を育てる」センターの所長をしており、マインドフルネスを含む瞑想の効果を脳科学の視点で実証している研究者として有名です。

 デビッドソンは、私たちがいつもどのように感情的に反応しているかというパターンを、脳科学の知見を反映させて脳の仕組みをベースに回復力、展望力、社会的直感力、自己認識力、状況への感受性、注意力の6つの「感情スタイル」に分類しています。脳は経験を通して変化するという可塑性がありますが、このことは脳のトレーニングによって脳の機能を強化することができることを意味します。「感情スタイル」は脳の仕組みをベースにした分類ですので、脳のトレーニングなどを通して「感情スタイル」の機能をポジティブな変化に変えることが可能となり、脳科学の面から実証されているのです(1)。

(1) 回復力(Resilience)-気持ちを切り替える力
 いかに早く困難から回復するかは、思考や創造性を担う脳の最高中枢である前頭前野と感情反応の処理をする扁桃体の間の信号によって決定されます。つながりが強いと回復が早く、つながりが弱いと回復が遅いのです。豊かな人生を送るためには、自分自身の感情を感じ、それに反応する必要がありますが、一方であまりにも回復が早すぎると感情が感じられなく場合もありますので、回復力は適度なスピードが必要です。回復力をほどよくつけるために、自分の思考、感情、感覚を、一瞬一瞬、ただあるがままに観察するトレーニング(マインドフルネス瞑想)をすすめています。

(2) 展望力(Outlook)-前向きな自分を保つ力
 ポジティブな感情をどれだけ長く保てるかは、腹側線条体と呼ばれる部位(この中に側坐核と呼ばれる神経細胞が集まっている場所があり、ここが特に動機やうれしいという感情をつくるのに重要な役割を果たしている)と前頭前野(行動計画を立てる機能)の活動が高い時です。それらを高める訓練としては、毎日自分自身や親しい人の良い点を書き上げ、感謝の気持ちを、自分自身を含めて表す訓練(感謝の瞑想)をします。そしてことあるごとに積極的に人をほめることもすすめています。

(3) 社会的直観力(Social Intuition)-人と共感する力
 社会的直観力は、顔の認識に重要な役割を果たす紡錘状回と扁桃体の活動が関係しています。社会的直観力を高めるには社会的サインに注意を払うようにし、紡錘状回の活動をアップすることが大切です。微妙なサインに気づけるようになるためには、まわりで進行していることに注目する訓練(ボディーランゲッジや顔の表情、声のトーンなどに気づく)やマインドフルネス瞑想、慈悲の瞑想をすすめています。

(4) 自己認識力(Self-Awareness)-自分と向き合う力
 自己認識力は、自分の身体、思考、感情に気づく能力で、認知機能の島(とう)と呼ばれる部位が関係しています。しかし極端に自己意識的であったりすると、パニック発作につながったりするためその適度な強化のために、マインドフルネス瞑想やマインドフルネスの一種であるボディスキャンをすすめています。

(5)状況への感受性(Sensitivity to Context)-状況への感受性
 状況への感受性は、状況に自分が合わせられるかどうかを判断する能力ですが、状況に合わせられる人は、記憶を処理する脳の海馬と実行機能を司る前頭前野との結合や長期記憶を蓄える大脳新皮質との結合が強い傾向があります。状況の感受性を高める効果的な方法としてマインドフルネス瞑想をすすめています。

(6)注意力(Attention)-1つのことに集中する力
 1つのことに集中する注意力は、前頭前野や認知機能に関わる頭頂葉の部位の活動が強くかかわっています。注意力をあげるためにマインドフルネス瞑想や静かな部屋で、目を開けてコインや靴ひもの穴のような小さい対象物を見つめる一点集中法(集中瞑想)をすすめています。

 これらの脳のトレーニング(瞑想)法は、心に作用し、脳を変えるように働きます。
つまり、感情スタイルは、自分のトレーニングで変えられるものなのです。

参考資料
(1)リチャード・デビッドソン、シャロン・ベグリー、脳には自分を変える「6つの力」がある(The Emotional Life of your Brain)、茂木健一郎訳、三笠書房、2013

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