レジリエンスを高めるセルフ・コンパッションの実践 竹腰重徳
レジリエンス(resilience)とは、日本語で「精神的回復力」「復元力」などと訳され、ストレスやトラウマなどの困難な状況に、しなやかに適応してそうした状況からうまく回復できる力のことを指します。「折れない心」「逆境力」ともいわれています。同じ厳しい困難な体験を持つ人々の中でも、必ずしも全員が心理的な不調を訴えるわけではありません。ある人は危機的状況において多大な影響を受けるのに対し、またある人は上手に対処し切り抜けることができるという違いは何かという点に注目して出てきたのが、レジリエンスの概念です。それは、厳しい状況でもネガティブな面だけでなくポジティブな面を見出すことができる人が、逆境を乗り切るのです。レジリエンスを効果的に発揮できる人は、悲しみや苦痛を感じない、傷つかないというわけではありません。そうした困難な状況に直面しても、柔軟に回復し立ち直る方向に自身を導くことができるということで、その能力がレジリエンスを有するということなのです。レジリエンスを構成する要素は様々であり、遺伝的・生物学的な要因や心理学的・社会的要因など多くの因子が関係しているといわれています。なかでも心理的・社会的要因としては、出来事の解釈や評価、感情や衝動をコントロールする力、問題を解決する力などが含まれており、これらは個人が自分自身で獲得し、育てていくことができる能力といわれています(1)。 レジリエンスを高める方法のひとつがセルフ・コンパッションです。セルフ・コンパッションとは、「自己への思いやり」と訳されていますが、自分が失敗や困難に遭遇したとき、ありのままに受入れ(マインドフルネス)、失敗や困難は人間に共通して起こることを認識(共通の人間性)して、自分自身に優しく思いやりの感情(自分への優しさ)を高めて失敗や困難にポジティブに対処する能力で、3つの要素で構成されています(2)。一般的に人はネガティブな情報を避けようとし、自分の欠点や失敗から目をそらそうとする傾向がありますが、それを受入れ、自分に優しく思いやりを持って接することで、ポジティブに課題に接することができ、今の自分にとって何が必要なのか、どうしたら対処できるのかと、客観的な視点から考えることができるようになります。今の自分にとって、必要なことがわかると、前向きな姿勢になり、自然とモチベーションが出てきます。このようにセルフ・コンパッションは、ストレスや困難から生じたネガティブ感情を受け入れ、ポジティブ感情に変えて、自分の心を安全・安心な気持ちにしてくれ、ストレスが軽減され、レジリエンス力を高め、柔軟に困難に対応できるようにしてくれます。セルフ・コンパッションの高い人は、レジリエンスが高いことがメタ分析で示されています。 毎日の仕事や生活の中で困難に遭遇した時に、セルフ・コンパッションの実践として使える「セルフ・コンパッション・ブレーク」という方法があります(2)。これにより、失敗や苦痛などネガティブ感情に直面したときに、自分を落ち込ませることなく、マインドフルネス、共通の人間性、自分への優しさの三つの要素を思い出し、ポジティブに冷静に対応できるようになります。 自分がストレス下にあること、また感情的に動揺していることに気づいたら、セルフ・コンパッションの3つの要素を次のような順序で実践し、繰り返します。 1.現在の自分の感情を観察し、「自分は苦しい」「悲しい」「悔しい」など、自分の言葉で表現します。言葉にすることでネガティブな感情が受け入れられます。これはマインドフルネスです。 2.次に「苦しいのは生きていることの一部だ」「人生悩むこともあるよ」「苦しいのは自分だけではない」など、自分に声をかけます。これは共通の人間性です。 3.そして気持ちが落ち着ける感じのするところ、胸などに手をあてて優しく自分に言ってみましょう。 「自分に優しくできますように」「自分に必要なことを与えられますように」「忍耐強くいられますように」と。 これは自分への優しさです。 この方法は、日常でストレスや困難を感じた時に、いつでも手軽に実践でき、レジリエンスが高まり、困難に柔軟に対応できるようになります。 参考文献 (1) American Psychological Association、Building your resilience http://www.apa.org/helpcenter/road-resilience.aspx (2)クリスティン・ネフ,クリストファー・ガーマー、マインドフル・セルフ・コンパッション・ワークブック、富田拓郎監訳、大宮総一郎他訳、星和書店、2019 |
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