サーバント・リーダーシップ特性−気づき
リーダーに必要な能力は、知的能力(IQ)よりも人間力(EQ:Emotional
Intelligence)が、もっと重要であることを統計的に示したダニエル・ゴールマンは、第1図に示すように人間力(EQ)を4つの能力領域、自己認識(Self-awareness)、自己管理(Self-management)、社会的認識(Social
Awareness)人間関係管理(Relationship Management)に分類し、これらがリーダーシップに必要な基盤となる能力であると述べている(1)。
「自己認識」とは、自分の感情が行動や業績にいかに影響するかを理解し、また自らの意思決定に際し自分の価値観を活用する能力、自分を正確に評価する能力、自信をもって行動する能力である。「自己管理」とは、自分の感情をコントロールする力で、その時々の感情のみに左右されず、それらを自ら統制して、外に向けて安定した態度や行動がとれる能力である。「社会的認識」とは、他人の感情や行動を読み取り、その考えや行動を共感的に理解することや組織内の政治的、社会的動きを読み取る能力である。「人間関係管理」とは、他人との関わりをうまく管理できる能力で、自分の望む方向に他人を動かせる能力である。 「気づき」はEQの4つの領域のうち、自己認識と社会的認識の能力領域であり、本当の自分を客観的に把握する能力と相手の気持ちや状況を読み取る能力である。 孫子の兵法の中に「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」(敵の実力を見極め、己の力を客観的に判断して敵と戦えば、100戦したところで危機に陥るようなことはない。)と有名な名言があるが、「気づき」とは将に、己を知ることであり、敵を知ることである。すなわち、「己を知る」とは、自分自身について気づくこと−「自己認識」であり、「敵を知る」とは、他人や環境についての気づくこと−「社会的認識」である。 サーバント・リーダーシップ提唱者のロバート・グリーンリーフの後継者でグリーンリーフ・センターの前代表のラリー・スピアーズは、「気づき」について、一般的に意識を高めて何事にも気づくことが大切であるが、特に自分への気づき「自己認識」がサーバント・リーダーシップ力を強化し、課題を理解するのに役立つとともに、より全体的な視点で状況に対応していくことができるようになるといっている(2)。老子の中にも「人を知る者は智なり。自ら知る者は明なり。」(第33章)(他人を知ることは、もちろんむずかしい。それよりももっとむずしいのは、自分を知ることである)とある(3)。そこで、今回は、第2図に示すように、自分を知ることつまり自分への気づき「自己認識」についてさらに記述する。「社会的認識」に関しては、サーバント・リーダーシップ特性の傾聴と共感を別稿にて述べる予定である。 「自己認識」とは、自分の感情や行動の関係を理解し、また自らの価値観や目標が行動のガイドになることをよく理解することができ、自分の長所・短所、能力などの特性をよく把握し、自分自身に自信を持って行動することができる能力で、「感情の自己認識」、「正確な自己評価」、「自己確信」の三つが自己認識の基盤のスキルとなっている(2)。 「感情の自己認識」とは、意識的に現在の自分の感情を読み取り、何故その感情が起こっているかを理解でき、さらに感情と行動・言動の関係を理解でき、自らの価値観と目標が自らをガイドする役割を担っていることを認識する能力である。 「感情の自己認識」のプロセスは、第3図に示すように、まず、目(視覚)、耳(聴覚)、鼻(嗅覚)、舌(味覚)、皮膚(触覚)などの五感によって、物事をみたり、聞いたりして知覚するところから始まる。知覚した情報は、脳の中に伝達されて、過去の経験などから評価され、その評価結果に基づいて、うれしい、悲しい、不安などの感情が発生する。その感情によって、脳の中で自分の価値観や状況から判断して取るべき行動を決め(意図)、行動を起こさせる。「今の感情は何か。何故そう感じるか。」を認識することにより、他人や状況をも知ることができる(気づく)ので、その感情をうまく利用して、有効な行動をとることができる。 例えば、上司から、新しいプロジェクトのプロジェクトマネジャーを担当するよう言い渡された(知覚)が、プロジェクトに状況がよくわからないし、経験がない(評価)ので、プロジェクトの成功に不安(感情)を抱いたとする。この不安な感情は何故発生いているのかを自らに問いかけ、このプロジェクトの不確定事項が多く、また経験がないであることに気づく。自分は新しいことに積極的に挑戦するという価値観から、積極的に挑戦を決意(意図)し、その不安をぬぐい去るのはどうしたらよいかを考え、その結果、不安を解消するために不確定事項を明確化してリスクに対応しよう(意図)と考え、リスク対応策作成作業(行動)に結びつく。また経験のない不安に関しては、まず、過去情報を参考にして、学習しよう(意図)と考え、過去情報の調査をはじめる(行動)。この「感情の自己認識」能力を強化する方法は、日々の状況と感情と行動とを振り返り、それぞれに対し、何故そう感じたか、何故そのような行動をとったか、もっとよい方法はなかったかと振り返ることにより、改善点を見つけていく。 「正確な自己評価」とは、自分の性格上や能力の面などの強さ弱さや限界を認識することができ、自分の欠点や自己の改善に関して、他人からのフィードバックや新しい見方をオープンに受け入れ、自己の開発を行うことができる能力である。この能力は、自分自身の価値をよく理解しているので、自分の能力に相応しい目標をたてて、仕事を着実にこなすことができる。また、ときにプロジェクトにおいてリーダーが「自分を正しく」みせることは、人心把握やチームワークの形成に想像以上の大きな効果がある。この「正確な自己評価」能力を強化する方法は、自分自身の振り返りと他人からの評価を謙虚に受け入れ、自己改革を続けることである。 「自己確信」とは、自らの価値観と能力に対して強い確信をもっており、価値観に基づいて、自信をもって自己を表明することができる能力である。すなわち、自らの価値観と存在感を示すことができること、正しいと信じることは不評をかっても自分の見解を述べ行動できること、不確実な状況やプレッシャーの中で健全な決定や行動ができる能力である。プロジェクトにおいてリーダーが自己確信をもって自分の実現したいビジョンや夢、価値観を示せば、一緒に実現してくれる人たち(フォロワー)にも信頼と確信を与えることにつながる。この「自己確信」能力の強化方法は、ものごとを実施する前に、自分の価値観に基づいた判断とやればできるのだといった肯定思考でものを見つめるようにする習慣を身につけることである。 以上
参考資料
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