自己認識とマインドフルネス                     竹腰重徳 

  感情知性(Emotional Intelligence:EQ)とは、他人から望ましい反応を引き出すために、自分や他人の思考や感情に気づき、調整する能力です。EQが高い人は、自分の感情や思考を容易にコントロールでき、他人の感情に共感する能力も高く、良い人間関係を築くことができます。EQで著名な心理学者ダニエル・ゴールマンは、EQを自己認識、自己管理、社会的認識、人間関係管理の4つに分類しています。自己認識とは、今の自分の感情に気づき、心から納得できる判断を下す能力です。自己管理とは、衝動を自制し、不安や怒りのようなストレスのもとになる感情を制御し、目標の追及に挫折したときでも可能性を捨てず、自分自身を励ます能力です。社会的認識とは、他人の気持ちや環境を共感的に感じ取る能力です。人間関係管理とは、集団の中で調和を保ち、協力し合う人間関係の能力です。自己認識つまり自分の今の感情に気づきがなければ、自己管理、社会的認識、人間関係管理のような他の情動的能力を発揮することは難しく、自己認識がEQを発揮する出発点であり基盤となります(1)。

 自己認識は、今現在、自分の内外で起こっていることを、正確に知覚し、心に発生している感情に気づく能力のことです。自己認識により、現在起こっている自分の感情を正確に知ることができ、起こっている課題に立ち向かうことができるのです。自己認識は、昨日起こったことではありませんし、明日起こることではありません。今この瞬間に起こっていることに焦点を当てます。一般的に、私たちの心は、起こっている内外の現象をあるがままに気づくのは大変難しいのです。それは今この瞬間に起こっていることに注意を向けないで、目の前の課題とは関係のない過去や未来のことを考えたりして、心がさまようことが多く発生するからです。したがって、自己認識能力をあげるためには、心を今この瞬間に集中し、起こっている内外の現象に気づき、客観的に自分を観るための訓練が必要となります。その訓練が、マインドフルネス瞑想です。

マインドフルネス瞑想は、2500年前に仏陀が編み出したヴィパサナー瞑想がルーツですが、もともと宗教性はなく、宗教と関係なく誰でも手軽に取り組めます。「マインドフルネス」は、初期仏教で使われるパーリ語の「サティ」の英語訳ですが、漢語訳では「念」、日本語訳で「気づき」です。「念」は「今と心」で構成されていますが、まさに心を今この瞬間に注意をむけることを表しています。つまり、マインドフルネス瞑想は、過去や未来のことでなく、「今この瞬間」に自分の内外に起こっていることに注意を向け、自分の体験の価値判断をすることなく、ありのままに気づくように、心を訓練するものです。筋トレと同じように毎日短時間でも繰り返しマインドフルネス瞑想を実践することで、少しずつ効果が上がってきます。毎日継続して実践することが重要で、私もその効果を少しずつ実感しつつあります。

 Medtronicの元CEOで現在ハーバード大学教授のビル・ジョージは、自らのマインドフルネスの30年間の瞑想体験から、「マインドフルネスは、私の自己認識を高め、自分自身や他人に思いやりを持つことを教えてくれました。さらに、プレッシャーのかかる状況や不確実性の高い状況下でも穏やかに、そしてクリアに頭を保つことができました。」と効果を述べています(2)。

参考資料
(1) Daniel Goleman et al., Primal Leadership、HBS Press, 2002
(2) BillGeorge,http://www.billgeorge.org/page/mindful-leadership-compassion-contemplation-and-meditation-develop-effective-leaders
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