自己コントロールとマインドフルネス                     竹腰重徳 

  私たちは、緊張しているときやストレスを感じているときは、感情のコントロールがうまくいかなくなります。疲れているとすぐイライラしてしまったり、カッとなって言わなくてよいことをついつい口走ってしまったりします。しかし、脳科学的にみれば、それはある種の生物的な必然といわれています(1)。ストレスが溜まった状態になると原始的な部位である扁桃体という感情脳が活性化されてしまいます。扁桃体は人間の、闘うか逃げるか、攻撃的な面をコントロールしています。通常は扁桃体が活性化したときには、理性を司る前頭前皮質がそれを抑えつける格好で沈静化を図ろうとします。人間が怒ると、扁桃体の活動が過剰反応します。そうすると体からコンチゾールというストレスホルモンが出て、それが溜まってくると、人間の思考を司る脳の部位である前頭前皮質の活動が抑えられてしまいます。その結果、脳の中の考える部分の活動ができなくなってしまいます。一気にイライラしてきて、感情のコントロールが難しくなり、相手を罵ったり攻撃したりするようになります。怒りを感じたら、それにすぐに反応せずに、ひと呼吸間をおいて感情を言葉に表すとよいのです。例えば「自分は今怒りを感じている」と思うだけで、前頭前皮質が活性化し扁桃体に落ち着くよう指示を出し、ある程度気持ちが落ち着くことができます。このように自己の感情を客観視して感情を落ち着けるよう間を取ることにより、ストレスにうまく対応していくようになります。自分を客観視できるようになれば、自分の感情もコントロールできるようになります。例えば、どのようなものが自分の怒りを発生させるかは、まず自分の感情に気づかないと状況を把握できません。怒った時に身体にどういう反応が立ち現れるかについても知っておく必要があります。胸がきゅっと押さえられるようになってくるとか、むかつくとかといった感覚です。自己コントロールとは、衝動的感情や苦悩の感情をうまくコントロールすることができ、厳しい状況でもクールにポジティブに冷静に現象をとらえることができ、ストレスのあるなかでも明晰に考え、適切な行動がとれる能力です。自己コントロールは衝動的感情や苦悩の感情を単に抑えることではなく、ネガティブな感情への対応がとてもうまくなることです。

 自己コントロールの能力を強化するには、心の訓練を実践することです。その方法とは、今現在起こっている瞬間瞬間の現象に注意を向け、その現象を良いとか悪いとの判断をせずに受け入れ、自分の内外の起こっている現象に気づく能力を向上させるマインドフルネスの訓練です。この訓練を長く継続していくと、脳の構造にも影響を与えることが脳科学面から実証されつつあります(1)。脳の可塑性と呼ばれていますが、脳の構造を直接変化させていきます。認知能力が上がったり、記憶力が上がったり、感情のコントロールもしやすくなります。前頭前皮質や島皮質の部分の灰白質(神経細胞の細胞体)の量が増えます。そうすると、脳のその部位が活性化されます。前頭前皮質は、認知力、記憶力、集中力、論理的考える力などが活性化されます。島皮質では、共感や自己認識力が高まります。このような様々な部位が活性化され、脳の機能が良くなります。さらに扁桃体は小さくなり感情的機能が抑えられ、ストレスにイライラしたり攻撃的になったりせず、冷静に対応ができるようになります。

参考資料
(1) 川上全龍、石川善樹、世界中のトップエリートが集う禅教室、角川書店、2016

                         HOMEへ