サーバントリーダーシップと慈悲の瞑想                     竹腰重徳 

  サーバントリーダーシップを提唱したロバート・グリーンリーフは、「サーバントリーダーは、支配的な言動によって相手を動かすのでなく、まず相手に尽くす、奉仕するといった思いやりの気持を持って行動すれば、多くの人から信頼され、自然と人がついてきて、適切な方向へ人々を導いていける。思いやりがリーダーシップの基本である」と述べています(1)。実際、思いやりが日常の活動に定着しているGoogle(2)は、素晴らしい業績を上げ続けています。

 では、思いやりの気持ちを育むにはどのようにしたらよいでしょうか。ブッダは、「何であれ、しばしば考え、思いを巡らせるものが、その人の心の傾向になる」と教えています。この練習のやり方は、ある考えが心に頻繁に浮かぶように促すと、それが心に習慣になるということです。例えば、人に会うたびに、その人の幸せを願っていれば、いずれそれが習慣になります。人に会ったときにはいつもその人が幸せになりますようにという考えが、真っ先に本能的に頭に浮かぶようになり、しばらくすると、優しさのための本能が育ち、優しい人になります。人に会うと必ず、その優しさが態度に現れるようになり、人はあなたの人柄に惹かれ信頼され、自然とついてくるようになります。思いやりの気持ちを育むには、他人も自分と全く同じと認識し、優しさをもって、誰にでも本能的に反応する心を生み出すようにすることです。その一つの方法がブッダの教えの慈悲の瞑想です。最初は自分の幸せを心に念じ、次に家族、友人など親しい人たちの幸せを念じ、そして最後にすべての生物の幸せを念じながら行う瞑想法です(3)。慈悲の瞑想は、宗教性はなく、誰でも取り組めるものです。

 日本テーラワーダ仏教協会は以下のような慈悲の瞑想をどこでもいつでも心を落ち着けて心を込めて念ずることを勧めています。
  私は幸せでありますように
  私の悩み苦しみがなくなりますように
  私の願いごとが叶えられますように
  私に悟りの光が現れますように
  私は幸せでありますように(3回)

  私の親しい人々が幸せでありますように
  私の親しい人々の悩み苦しみがなくなりますように
  私の親しい人々の願いごとが叶えられますように
  私の親しい人々にも悟りの光が現れますように
  私の親しい人々が幸せでありますように(3回)

  生きとし生けるものが幸せでありますように
  生きとし生けるものの悩み苦しみがなくなりますように
  生きとし生けるものの願いごとが叶えられますように
  生きとし生けるものにも悟りの光が現れますように
  生きとし生けるものが幸せでありますように(3回)
  さらに、対象を私の嫌いな人々、私を嫌っている人々にも対象を拡げ、すべての生き物に幸せを心に念じます。

 慈悲の瞑想の効果は、数多く脳科学的に検証されています。スタンフォード大学の利他主義教育センターやドイツのマックブラウン認知神経科学研究所などでは、瞑想によって人間の脳が変化し、思いやりが育み、リーダーシップだけでなく、痛みが軽減できる、幸せを感じるなど、心身の健康を向上させられることも検証されています(4)。筆者も、マインドフルネス瞑想と慈悲の瞑想をしていますが、その効果を少しずつ感じています。              
参考資料
(1)Robert K. Greenleaf、The Servant as Leader、GreenLeaf Center、1970
(2)チャディー・メン・タン、Googleには毎日思いやりがある、TED Talk、2010
(3)日本テーラワーダ仏教協会の慈悲の瞑想http://www.j-theravada.net/3-jihi.html 
(4)M.リカール、A.ルッツ、R.デビッドソン、瞑想の脳科学、日経サイエンス、2015


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