イノベーションを促進するサーバント・リーダーシップ              竹腰重徳 

  グローバル化、少子高齢化の進展、消費の成熟化など、企業を取り巻く環境は大きく変わっている。激しい環境変化の中で、企業が、熾烈な競争に勝ち残るために、イノベーションによる変革が求められている。イノベーションとは、新しい顧客価値を生み出すための革新の事業活動のことで、新製品の導入、生産方法の革新、新市場の開拓、新資源の獲得、新たな組織の実現など、既にあるものの新しい結合から、社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変革をもたらすものである。

 グーグル、アップル、GEなどイノベーションの実現に成功している企業では、顧客重視を打ち出し、そこに働く者を大切にし、すべてに活力と意欲を与えるとともに、全社員に貢献、学習、成長させ、イノベ―ティブであることを奨励して社会に大きな変革をもたらしている。

 働く人間を大切にし、彼らが意欲をもって仕事ができるようにするリーダーシップは、サーバントリーダーシップが非常に有効である。サーバントリーダーシップの実践哲学は、「サーバントリーダーは、リーダーとしての高い志、ミッションやビジョンを持って、それを本気で信じ、一緒にその実現に向かうメンバーと共有し、最初にメンバーが何を望んでいて、どのようにそれに応えていくかを考えて導いていくこと」である。サーバントリーダーシップを提唱したロバートグリーンリーフは、これを「サーバントファースト」と呼び、リーダーはビジョンを実現するためには、メンバーに奉仕する(尽くす)ことを最初に取り組むことだと説いている (1)。

 イノベーションの創出に成功している企業のイノベーション創出プロジェクトにおける場の特徴は以下のとおりである (2)。
① 顧客の価値観に焦点を当てる
 イノベーションプロジェクトでは、製品やサービスを顧客に売り込むという発想ではなく、顧客にとって役に立つことは何かを最初に調査し、それにあった製品やサービスを創出していく方法をとる。これはまさに、顧客に対して「サーバントファースト」いう考え方で、相手の役に立つことは何かを最初に考えて行動するサーバントリーダーシップの実践哲学の実行である。

② 異なる部門から集めたメンバーで構成されるプロジェクトチームに自由裁量権を与えて実行する
 プロジェクトチームは、異なる部門から集まったチームメンバーで構成され、それぞれの立場から複眼的にものごとをとらえ、イノベ―ティブな製品やサービスを協調して自律的に創り出していく。サーバントリーダーシップでは、リーダーが作業を細かく指示するのではなく、チームに任せることにより、チームが意欲をもって最大限の能力を発揮することを可能にする。リーダーは、ビジョン実現に向けてチームを下から支えながら支援するとともに、チームが自律的なチームになるよう育成する。

③ 失敗を恐れず、失敗から学ぶ場を設定し、作ることで考え、学び、また作り、考え、学び続けるというプロセスでイノベ―ティブな製品・サービスを生み出す
 イノベ―ティブな製品やサービスは、過去の延長では予測できない未知との遭遇である。誰にも明確に予測できないので、できるだけ速く形のあるものを創り、失敗をし、そこから学び、また創り、学びを繰り返しながら高速にプロトタイピングをして顧客の真のニーズに合ったイノベ―ティブな製品やサービスを創り出す。サーバントリーダーシップは、失敗を恐れない安全な職場環境を提供するため、チームは自由闊達な行動ができ、イノベ―ティブな製品やサービスを生み出すことができる。

 イノベーションを創出するのは、人間であり、彼らがいかに顧客志向で高いモチベーションをもって仕事に取り組むかがキーとなる。そのような環境を作り出すリーダーシップがサーバントリーダーシップである。

参考資料
(1) Robert K. Greenleaf,The Servant as Leader, 1970
(2) 大塚常好、儲けを生み続ける「最強リーダーの口グセ」50、プレジデント 2013.9.16号
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