サーバントリーダーシップPM実践例

 変化への対応が要求されるアジャイル環境では、ビジョンやゴールを明確に定め、一緒に行動してくれるメンバーに伝えて理解を求め、動機づけや権限委譲を通じて士気を高めて行くリーダーシップが重要となります。このような環境に最も合うリーダーシップ論が、「リーダーはメンバーのために存在し、メンバーに尽くす」というのが基本的な考え方のサーバントリーダーシップと考えています。サーバントリーダーシップは、以下のような特性を持っています。
  ・利他心(相手に尽くし奉仕することにより信頼を得ること)
  ・気づき(自分自身の感情と行動を理解し、相手や状況を理解すること)
  ・癒し(自分や相手のストレスや困難、リスク要因を見つけ出して解決すること)
  ・傾聴(心を開いて、相手の要求や課題を聴くこと)
  ・共感(相手の立場で、相手の感情・思考・意図を理解すること)
  ・説得(強制ではなく相手を納得させて、自発的な行動を促すこと)
  ・概念化(目指すゴールやビジョンの具体的なイメージを描くこと)
  ・先見性(過去から学び、現実を見据え、未来への道筋を示すこと)
  ・スチュワードシップ(信頼と強い責任感の下で黙々と奉仕すること)
  ・成長へのコミット(相手の成長を支援すること)
  ・コミュニティー作り(チームワークと協調を促進すること)

 筆者は、PMを務めたプロジェクトにサーバントリーダーシップを適用し、その有効性を評価・確認する機会を得ましたので報告します。そのプロジェクトの概要は以下の通りです。
  ・プロジェクトの目的
    ソリューション営業の実践力強化を目的としたeラーニングコンテンツの開発を行う。(学習者は解説文を音声で聞き
    ながら画面を見て学習する。)
  ・プロジェクト成果物(eラーニングコンテンツ)
    学習表示画面(パワーポイントで作成)
    画面の解説文(ナレーション)
    ナレーターによる解説文の音声
    Flash技術を使った画面(画面と音声の統合)
    導入手順書
  ・主要ステークホルダー
    プロジェクトマネジャー(筆者)
    学習表示画面と解説文の作成者
    ナレーター
    Flash技術を使った画面の開発者(サーバントリーダーシップ実践対象者)
    eラーニングシステム(LMS)の提供者
  ・プロジェクト期間
    開発期間5カ月

 サーバントリーダーシップ実践の対象者は、Flashを使った画面の開発者です。彼女は個人で独立しているソフトウェア開発者です。今回はリモートで仕事をしなければならない環境でした。そのため、いかに自律的に行動をしてもらうかがプロジェクトの成功のキーと思い、意識的にサーバントリーダーシップを実践し評価してみようと思いました。

 サーバントリーダーシップをどのように実践していったかについて、プロジェクトマネジメントプロセスに沿って、話を進めていきます。
 プロジェクトの立ち上げ段階では、プロジェクト憲章(プロジェクトビジョン)を作成します。まず、「相手に役に立つことを最初に考える」という実践哲学に従って、このプロジェクトに対する彼女の期待や要望を聴くところから始めました。
彼女の要望は、eラーニング、Flash、PMの実践力などの技術習得でした。そこでプロジェクト目標の中にQCD(品質・コスト・納期)目標と彼女のスキル向上目標を入れてプロジェクト憲章を作成し、同意を得ました。このとき実践した主なサーバントリーダーシップ特性は、利他心、傾聴、共感、気づき、説得、概念化、先見性、成長へのコミットでした。

 計画プロセスでは、プロジェクトマネジメント計画書を作成します。まず、彼女が担当する部分のWBS(ワークブレークダウンストラクチャ)とスケジュールを作ってもらい合意しました。筆者が彼女の新技術習得のための育成計画を作り、合意しました。彼女の作業場所は遠隔になるので、コミュニケーションが重要なキーとなります。そのためフェースツーフェースの対話や状況報告の方法をコミュニケーション計画にまとめ、合意しました。
 このように彼女も計画作りに参加し、相談しながら納得のいくプロジェクトマネジメント計画書を作りました。このフェーズで実践した主な特性も、利他心、傾聴、共感、気づき、説得、先見性、成長へのコミットでした。

実行および監視コントロールのプロセスでは、彼女は画面の開発を行っていきます。プロジェクトの状況を把握し共有するために、毎週eメールのほかにSkypeのビデオ通話でお互い顔を見ながらコミュニケーションを行いました。
 彼女が仕事をしていく上で課題はないか、個人的な問題はないか、期待どおり楽しく仕事ができているか等、開発期間中ずっと彼女のモチベーションに気を遣いました。進捗遅れが生じたときは原因を一緒に考え、協力して解決に取り組みました。中間成果物にも感謝の気持ちを表し、丁寧にフィードバックを行いました。このフェーズで実践した主な特性は、利他心、傾聴、共感、気づき、癒し、先見性、コミュニティー作りでした。

 終結プロセスでは、よかった点、悪かった点、改善すべき点等を一緒に振り返り、プロジェクトを成功裏に終えることができました。

 このプロジェクト結果に対する彼女の満足度評価は、非常に高いものでした。その理由として彼女は、①バーチャル環境であるにもかかわらず、課題やリスク、進捗等を週次で共有できたこと、②高いモチベーションを維持できたこと、③自律的に仕事ができたこと、④励ましがあり気持ち良く仕事できたこと、⑤新技術を習得できたこと、を挙げています。
指示管理型のプロジェクトマネジメントではなく、常に「主役は彼女である」という気持ちで支援しました。このサーバントリーダーシップの実践は、今回のプロジェクトマネジメントに大変有効であったと思っています。

                                                                    以上
                              


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