ストレスに有酸素運動                         竹腰重徳

 有酸素運動とは、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、エアロビクス、水泳などある程度継続して行う比較的軽い運動をいいます。これらの運動では、比較的弱い力が継続的に筋肉にかかり続けるため、エネルギー源として体内に蓄えられている体脂肪を燃焼して使います。体脂肪を燃焼するために継続的に酸素を取り入れます。一方無酸素運動とは短い時間に大きな力を発揮する強度の高い運動を指し、筋肉を動かすためのエネルギーを、酸素を使わずに糖をエネルギー源として作り出すことからこのように呼ばれています。

 有酸素運動の効果は、体脂肪の燃焼に加え、呼吸器循環器系の機能の向上、さまざまな生活習慣病の予防・改善など身体の健康に役立つことが知られていますが、ストレスにも役に立つことが、以下のように脳科学的に実証されています(1)(2)。

 有酸素運動をすると、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィンといわれる神経伝達物質が発生します。セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンは、感情を左右するだけでなく、人格の形成において重要な役割を果たし、集中力や意欲、意思決定などの認知能力にとっても欠かせない物質です。セロトニンには、鎮静作用があり、それが脳の活動をも調整しています。興奮した脳細胞を鎮めて脳全体の活動を抑制し、悩みや不安を和らげます。また心を落ち着かせ、冷静な判断や強い精神力を促します。特にストレスに対して効能があり、自らの体内で生成されるものです。ノルアドレナリンは、やる気や注意深さ、集中力を促します。これが足りないと疲労を覚えたり気持ちが滅入ったりするが、逆に多すぎると、興奮したり過活動になったり、落ち着きを失ったりします。ドーパミンは脳の報酬系で中心的な役割を果たし、意欲や活力を促し、集中力や意思決定にも関わっています。エンドルフィンは、運動による苦痛から脳を防御してくれる物質です。運動は筋肉に負荷をかけ、心臓を普通よりも多く動かすので、多少なりともストレスがかかります。そのストレスを軽減させ、そして強い高揚感を促します。有酸素運動はストレス軽減するだけでなく、ストレスに強い心身を作る意味でも効果的であり、日常的に運動を続けることで、セロトニンやエンドルフィンが安定的に供給され、ストレスへの耐性が増します。

 さらに、有酸素運動によって、脳由来神経栄養因子(BDNF:Brain-Derived Neurotrophic Factor)と呼ばれる脳にとって貴重なたんぱく質が分泌されます。BDNFは、主に大脳皮質や海馬で合成されるたんぱく質ですが、脳に計り知れないほどの素晴らしい恩恵を与えてくれる物質です。BDNFは脳細胞が他の物質によって傷ついたり、死んだりしないように保護してくれるだけでなく、新たに生まれた細胞を助け、初期段階にある細胞の生存や成長を促し、脳の細胞間の繋がりを強化し、学習や記憶の力を高めています。さらに、脳の可塑性を促して細胞の老化を遅らせる働きもしています。大人でも子供でも、高齢でもBDNFは脳の健康に取って欠かせない存在です。BDNFは、脳の神経細胞の可塑性、新生、維持、生存を促進し、脳の機能回復や機能維持において重要で、海馬や前頭前野といった学習や記憶、高度な思考に必要な部位の神経細胞を保護、回復、新生する働きがあり、強いストレスによる意欲低下や「うつ」を防ぐだけでなく、記憶力の向上、認知力の向上をもたらしくれます。

 有酸素運動は、述べてきましたように脳科学的にストレスに役立つことが実証されています。ウォーキングかジョギングなど手軽で自分に合った有酸素運動を短時間でも日常生活の中に取り入れるとよいでしょう。

参考資料
(1)アンダース・ハンセン、一流の頭脳、御舩由美子訳、サンマーク出版、2018
(2)重森健太、走れば脳は強くなる、クロスメディア・パブリッシング、2016

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