アジャイル・リーダーシップ                            竹腰重徳

  少子高齢化、消費の成熟化、グローバル競争、新型コロナの問題など、市場の変化や競争が激しくなり、あらゆる産業は、イノベーティブな製品・サービスの提供が求められています。イノベ―ティブな製品・サービスの開発は、過去の延長では予測できない未知との遭遇です。そのため予めの時間をかけて要求を明確にし、変更はあまり生じないという前提で開発していくウォーターフォール型の開発方法では対応できず、全く違う方法をします。事前に要求を明確にすることが困難なので、顧客と一緒に協力し、できるだけ速く形のあるものを創り、顧客のフィードバックを受け、そこから学ぶといったプロトタイピングを繰り返しながら、真のニーズに合った製品やサービスを創り出すといった仮説検証型方法をとります。この方法がアジャイル開発です。

 アジャイル開発は、アジャイル価値観・原則(1)を考えずに方法論のみに注目して実践すること(一般的に ‘Doing Agile’ と呼ばれています)は、比較的に容易ですが、開発の効果を上げることはできません。真にアジャイルの効果をあげるには、顧客と開発チームがアジャイル価値観・原則の考え方をもってアジャイルを実践すること(‘Being Agile’と呼ばれています)がキーとなります。アジャイル手法を使うときの価値観・原則、心構え、判断基準で行動指針となるものをアジャイル・マインドセットといいます。私たちの開発への考え方は、今まで慣れ親しんできたウォーターフォール型開発方法が習慣として染み込んでいますので、即座にアジャイル・マインドセットに変えることは非常に難しいのです。そのためアジャイル開発を実践するときは、顧客と開発チームがアジャイル・マインドセットを持ってアジャイルを実践できるように、日々の実践活動の中で支援・指導するアジャイル・リーダーが必須です。アジャイル・リーダーは、まさに顧客や開発チームの「働き方改革」を推進する役割を担っています。

 開発チーム全員が、アジャイル・マインドセットを持ってアジャイルを実践できるようになると、次のような特徴を持ったチームになることができます。
 ・メンバーはモチベーション高くそれぞれの役割を果たす
 ・失敗を恐れず、失敗から学ぶ
 ・全員が互いに尊重しあい、協力してチーム目標を達成する
 ・チームは自己組織的に運営され、チームとして結果に責任を持つ
 ・情報は透明性を保ちオープンにされる
 ・チームが創造性を上げる
 ・人・プロセス・プロダクトの改善が継続して行われる
 ・変化を歓迎し変化へ対応する
 ・顧客の価値実現のため顧客に共感し、協力する
 
 顧客や開発チームは、アジャイル価値観・原則を学んだからと言って、簡単にアジャイル・マインドセットでアジャイル実践ができるようにはなりません。アジャイル・マインドセットをよく理解し実践経験のあるアジャイル・リーダーの指導を受けながら、アジャイル開発を実践することによって、アジャイル・マインドセットが身につくのです。アジャイル・リーダーには、次のようなアジャイル・リーダーシップの能力が要求されます。

 ・相手を指示命令で動かすのでなく、相手のことをまず考えて支援し導いていく能力
 ・自分の感情を理解し,場面によって感情をコントロールし,他者の感情を共感的に理解して対人関係をうまく処理する能力
 ・他者にオープンに耳を傾け,明確で的確なメッセージを読み取ったり,伝えたりするコミュニケーション能力
 ・メンバー一人ひとりの強み弱みを理解し,メンバー同士の相乗効果を引き出しながらチームの目標達成活動を支援・促進する能力
 ・相手がアジャイルの価値観・原則を十分理解して行動できるようにする育成能力

参考文献
(1) The Agile Manifest、http://agilemanifesto.org


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