アジャイル・プロセスとマインドフルネス                   竹腰重徳

  グーグル、アップル、フェースブック、アマゾンなど欧米の先進的企業は、顧客重視を打ち出し、そこに働く人間を大切にし、すべての人たちが活力と意欲を持てるような環境を整え、製品やサービスを提供し続けています。開発手法としてはアジャイル手法を採用し、マインドフルネス実践にも取り組んでいます。アジャイル手法は、開発中に発生する様々な状況の変化に対応しながら開発を進めていく手法で、開発チームが顧客と協調しながら、反復漸進的に製品やサービスを提供します。アジャイル手法では、人間が中心であるという価値観(チームメンバー全員が高い意欲と活力を持って活躍できること)が、最も重要な成功要因となっています。この価値観を促進するためにアジャイル・プロセスにマインドフルネス実践を取り入れることは、非常に有意義と考えられます(1)。

 マインドフルネス実践とは、今起こっている現象に心を向けているときに、心が別のことにさまよったり、思考にとらわれるたびに、今起こっている現象に心を向けなおし、その現象を何も評価せず受入れて気づくことです。この実践により、集中力がつき、自分の感情・思考・行動に気づき、相手の感情や考えに気づき、相手に対する思いやりが育まれ、創造性が強化されます。困難にも冷静に対応し、ありのままに物事を捉え、的確な判断することができるようになります。私たちの心は、強いストレスや自動思考に陥ったり感情的になっているとき、脳は創造性を発揮したり、効果的なコラボレーション、冷静な判断ができませんが、マインドフルネス実践によって、ストレスは低減し、起こっている現象に対して、より冷静かつ明晰に気づき、的確な判断や創造性を発揮し、思いやりを持って行動ができるようになります。

 アジャイル・プロセスには、計画会議、毎日のスタンドアップ会議を含む開発作業、レビュー会議、振り返り会議のステップがあります。マインドフルネス実践をアジャイル・プロセスに導入すると、マインドフルネス実践を通じて、各メンバーは気づき、集中力、思いやり、創造性などが高まり、的確な判断をしながら行動ができ、コミュニケーションが改善し、コラボレーションが促進され、開発作業も会議も有効に行うことができます。マインドフルネス実践をアジャイル・プロセスに組み込むことで、チームの活力と意欲が上がり、より楽しく仕事をするようになり、生産性が向上します。

 アジャイル・リーダーは、チーム全員がアジャイル価値観やプロセスを理解して仕事ができるように支援して、開発の主役であるチームの開発活動をサポートします。アジャイル・リーダーの役割は、チームが意欲をもって効果的に仕事を続けられよう支援しますので、チーム全員にマインドフルネス実践を推進するよい立場にあります。アジャイル・リーダーは、個々のメンバーにマインドフルネス実践を奨励し、アジャイル・プロセスのステップに組み込むとよいでしょう。

 例えば、アジャイル・プロセスでは、毎日開発作業を開始する前に、その日の進捗状況と課題を15分以内でメンバー全員がコミュニケーションするスタンドアップ会議を行いますが、この会議の前に2-3分程度の短い時間のマインドフルネス実践をするとよいでしょう。背筋を伸ばしてリラックスして立ったまま、自然な呼吸をし、呼吸に注意を集中します。息を吸ったり吐いたりするたびに腹部を空気が通過し、膨らんだり引っ込んだりするのを感じます。注意を集中している瞬間瞬間に、わいてくる思いや感じに気をつけ、そういう思いや感じを受けとめている自分に評価を下さずにただ観察します。そしてまた呼吸に注意を集中します。時間が来たら会議をスタートします。この実践により各メンバーは、他メンバーの説明をより集中して聴き、全員の進捗状況と課題を理解し、一致団結してチームに貢献するために今日1日頑張るのだ、というマインドセットでスタートが切れます。活力と意欲をもって楽しく開発作業がスタートでき、有効な1日となります。

参考文献
(1)https://mindfuldevmag.com/issues/issue-6-mindful-winter/mindfulness-and-scrum

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