生成AI時代に求められるラーニングアジリティ              竹腰重徳

1.はじめに:変化が常態化する時代に
 プロジェクトマネジメントの現場では、技術、ビジネス環境、そして人の価値観までもが日々変化しています。特に生成AIの登場によって、これまでの経験や知識がそのまま通用しない局面が急速に増えています。こうした時代において、プロジェクトマネジャーに求められるのは、知識やスキルの蓄積だけでなく、新しい状況から学び、柔軟に適応して成果を出す力です。この能力こそが「ラーニングアジリティ(Learning Agility)」と呼ばれています。

2.ラーニングアジリティとは何か
 ラーニングアジリティとは、未知の状況でも素早く学び、行動し、成果を上げる力を指します。米国コーン・フェリー社の研究(De Meuse, Dai, Hallenbeck, 2010)によれば、ラーニングアジリティの高い人ほど、リーダーとして成功する確率が高いとされています。つまり、どれだけ経験豊富であっても、新しい環境で学び続ける姿勢がなければ、リーダーシップを発揮することは難しいということです。

3.PMBOKにみるラーニングアジリティの位置づけ
 PMBOK第7版では、「プロジェクト成功のために必要な行動原則」として、適応性や学び続ける姿勢が示されています。ラーニングアジリティは、まさにこれらの原則を体現する能力です。生成AIなどの技術革新が続く中で、経験だけに依存せず、新しい状況に学びを通じて対応する力が、PMのリーダーシップに不可欠になっています。

4.実践例:AI導入プロジェクトでのラーニングアジリティ
 ある企業で生成AIを業務に導入するプロジェクトが立ち上がりました。チームの誰もがAI開発の専門家ではなく、初めて触れる領域でした。リーダーはまず自らChatGPTを試し、得られた知見を共有するところから始めました。メンバーにも小さな実験を促し、「試して学ぶ」文化を育てました。導入過程で失敗もありましたが、そのたびに「何が学びだったか」を振り返り、プロセスを改善しました。結果として、業務効率が20%改善し、プロジェクトは成功し、チームには自律的に学ぶ文化が根づき、他のプロジェクトでも、まずやってみようという姿勢が定着しました。

5.なぜ今、ラーニングアジリティが重要なのか
 今日のプロジェクト環境は、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と呼ばれます。生成AIやDXの波は、プロジェクトの進め方そのものを根本から変えています。固定的な知識では対応しきれず、「学びながら進む」姿勢がリーダーの生存条件となっています。Korn Ferryの調査では、ラーニングアジリティの高いリーダーを多く抱える企業は、そうでない企業に比べて25%高い利益率を上げていると報告されています(Korn Ferry Press Release, 2014)。つまり、学び続ける力は個人の成長だけでなく、組織の競争力そのものに直結しているのです。

6.プロジェクト現場での実践ポイント
 ラーニングアジリティは、特別なトレーニングがなくても日常のプロジェクト運営の中で鍛えることができます。
1.「なぜ」を問う習慣を持つ
 プロジェクトの課題や失敗を単なる出来事で終わらせず、「なぜ起こったのか」を問い直す。
2.小さく試す
 完璧を求めず、仮説を立てて小さく試し、そこから学ぶ。
3.多様な視点を取り入れる
 専門や立場の異なる人と対話し、発想を広げる。
4.定期的な振り返りを組み込む
 「レトロスペクティブ(ふりかえり)」を定常的に行い、学びを明確化する。
5.失敗を責めず、学びとして共有する
 失敗からの学びをチーム全体の財産に変える文化を醸成する。
 
7.おわりに
 プロジェクトマネジメントにおける成功要因は、計画や技術の精度だけではありません。未知の課題に直面したとき、どれだけ早く学び、柔軟に対応できるかが鍵になります。ラーニングアジリティは、リーダーにとって「知的筋力」と言えるでしょう。PMBOKが強調する「適応性」「学び続ける姿勢」を具体的に行動へと落とし込むものこそ、ラーニングアジリティです。生成AIをはじめとする新技術が変化を加速させる中で、私たち一人ひとりが学び続ける姿勢を持ち、チームや組織にその文化を広げていくことが、これからのプロジェクトマネジメントにおいて最も重要なリーダーシップになるでしょう。

参考文献
(1) Korn Ferry 、The Importance of Learning Agility for Leadership Success、 Korn Ferry Institute 2014

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