「あることモード」とマインドフルネス                   竹腰重徳

 マインドフルネスでは、心の状態を「することモード(Doing Mode)」と「あることモード(Being Mode)に分けて考えます。

 「することモード」とは、何かの目的を達成しようとする心の状態で、私たちの日常活動のほとんどが「することモード」になっています。物事が望ましい状況にあるかどうか、目的を達成できているかなど、常に判断・計画・評価して、効率よい解決策や達成の道筋を考えようとします。それが思い通りに進めば目的をスムーズに達成できるため、達成感や満足感を得ることができ、私たちの日常活動を大いに支えてくれます。
 
 しかし、何かの問題が発生するなど、思い通りに行かないことが起こると、「することモード」がやっかいな状況に心を追い込んでしまいます。このモードの心は、目的と現実のギャップに直面すると、「今のままでは、駄目だ」と、否定的な評価をします。さらに、現実と目的のギャップを埋めることにこだわり、ぐるぐるとネガティブな考えを巡らせていきます。「何が悪かったのだろうか、どこで間違えたのだろうか」「もっとこうすべきだった」「次もうまくいかなかったらどうしよう」などと、「うまくいかない」「何々であるべきなのに」「やはり自分は何をやってもダメだ」と、駆り立てるようにどんどん心に中に不快感を募らせていき、気がかりなことに囚われた心の状態になってしまいます。さらに、グルグルと同じことばかりを反すうし、自分の駄目さへの確信が高まり、より一層落ち込んでいくといったことが起こり、強いストレスとなっていきます。これが「することモード」の罠なのです。
 
 そんな時には、一旦冷静になって、客観的に物事を判断することが大切です。そこで、役に立つのが「あることモード」です。このモードでは、評価や判断を手放すことになるので、あるがままに出来事を受取る心の状態となります。まずは判断を手放すことで、自身が置かれた状況を広い範囲から観察することが可能となり、危機的な状況から抜け出すための方法を柔軟に選択できるようになります。現実の出来事と自分自身の間の距離を置くことで、冷静に判断できるようになります。「あることモード」は、「ありのまま」を受けとめる心の状態です。「することモード」とは違って目的を達成しようとはせず、目的と現実のギャップを感じても評価・非難することはしません。どんな状況にあっても、「悪い」「駄目」「失敗」などと決めつけずに、現在の経験のひとつとして、ありのままを受容して、そのままに「させておく」心の状態です。

 私たちは、嫌なことが起こると自動的に「することモード」に心がシフトしがちですが、それを「あることモード」へとチェンジしてくれるのが、マインドフルネスの実践です。「することモード」がすべて悪いというわけではありません。私たちが物事を達成しようとするためには必要な心の状態です。ただ、問題が発生したときに考えすぎてネガティブな思考のループから抜け出せないときのために、「今、自分は『することモード』になっている」と気づき、そのうえで、「あることモード」へと意識を変える訓練をすることが大切なのです。マインドフルネスの訓練とは、ずばり「あることモード」にスイッチするための訓練です。マインドフルネスの訓練の中で、「することモード」になっている自分に気づき、「あることモード」へと意識的に移すことを訓練していきます。マインドフルネスでは、自身の中に生じた「思考」や「感情」、行動に気づくことが一番のポイントになります。自分の行動目的に気づきその目的を一旦手放すことで、見えてくることがあります。特定のゴールを向かっているときには、見えなかったことが鮮やかに姿を現し、この全体視からこれまで気づかなかった可能性が現れ、新たな道が開けてくるのです。

参考資料
(1)Zendal Sigeal、Difference Between ‘Being’and ‘Doing’、Mindful.org、2016
  https://www.mindful.org/difference-between-being-and-doing/
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