グリーン・エクササイズ 竹腰重徳
自然の中で過ごすと心身ともに健康によいという科学的な根拠が、森林総合研究所の森林浴の効果調査で示されています(1)。緑豊かな自然の空気に触れることにより、副交感神経に作用し、体をリラックスさせ、細胞を活性化して疲労を回復させるなどさまざまな疾患の予防に有効なマイナスイオンが得られます。また樹木などが発散する健康的な抗菌性物質で心の落ち着きリラックスをもたらすフィトンチッドなども、取り入れることができます。これらの効果により、副交感神経活動の活発化や交感神経活動の抑制、コンチゾール(ストレスホルモン)の低下、免疫力の向上、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化、抗がんたんぱく質の増加、血圧の低下などの効果が期待でき、健康増進に効果があることが実証されています。 ウォーキング、ジョギング、サイクリング、エアロビクス、水泳など継続して行う比較的軽い運動の効果は、体脂肪の燃焼に加え、呼吸器循環器系の機能の向上、さまざまな生活習慣病の予防・改善など身体の健康に役立つことは知られています。さらに、ストレス低減、記憶力の向上、認知力の向上をもたすことも、脳科学的に実証されています(2)。 グリーン・エクササイズは、自然の中で運動することで、緑豊かな自然に触れる効果に加え、運動による効果の相乗効果が期待されます。グリーン・エクササイズの効果についていろいろ研究調査が行われていますが、英国エセックス大学の研究で、過去に行われたグリーン・エクササイズに関する多くのデータの中から質の高い10件のトピックスをアップしメタ分析したものがあります(3)。多種多様な男女1252人を対象に、森の中でのウォーキングやサイクリング、公園内の中での運動、田舎での乗馬や農作業など、いろいろな場所やいろいろな運動を取り上げて、どのようにメンタルヘルスに影響を与えるかということを調査分析しました。 結論として、グリーン・エクササイズは短期間(5分)でも、かなりのレベルでメンタルヘルスを向上させることができるというものでした。この研究ではどれくらいのレベルの自然が必要なのかということも調べてくれています。より大きな効果があったのは、湖や川のような水もある自然でのエクササイズでした。また例えば国立公園や山の中のようなところでなくても、都心にあるような緑化されている広場や公園でも、効果があることがわかっています。運動の強度に関しても調べてくれていて、そんなにハードな運動でなくても、ウォーキングやサイクリング、ガーデニングや魚釣り、ボートに乗ったり、動物に触れ合うとか、農作業などでも効果があります。ハードな運動でなくても、緑の中で身体を動かすことが、ストレス低減になりメンタルヘルスに効果を発揮します。またウォーキングの時間を長くしても効果のほどはあまり変わらないことも判明しています。むしろ、運動を始めてから最初の5分で得られる刺激によって脳が感じていた疲れが取れていくこともわかっています。つまり、汗をかいて疲れるまで運動をやる必要はなく、軽いエクササイズで効果が高く即効性があるということです。このようにグリーン・エクササイズは、公園や街路樹のある歩道、緑化された場所など、オフィスの周りにある小さな自然をウォーキングするだけでメンタルヘルスを得ることができますので、昼休みなど空いた時間を見つけて手軽に実施されることをおすすめします。 参考文献 (1)森林総合研究所、第2期中期計画成果集-森林の保健・レクレーション機能等の活用技術の開発、森林総合研究所、2011 (2)アンダース・ハンセン、一流の頭脳、御舩由美子訳、サンマーク出版、2018 (3)Jo Barton & Jules Pretty、What is the Best Dose of Nature and Green Exercise for Improving Mental Health? A Multi-Study Analysis、Environ.Sci.Technol. 2010 |
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