グリットとマインドフルネス                     竹腰重徳 

  米国ペンシルベニア大学心理学のアンジェラ・ダークワース教授は、人びとがそれぞれの分野で成功し、偉業を達成するには、「才能」よりも「グリット(Grit)-やり抜く力」が重要であることを科学的に突き止めました。グリットが人生で成功を収めるための最も関係の深い要素であるということです。その人が成功するかどうかは、生まれつき持った才能でも、IQ(知能指数)の高さでもなく、情熱と粘り強さをもって何かをやり抜く力があるかどうかに左右されるのです。

 アップルの創業者スティーブ・ジョブス、バスケットボール界のスーパースター、マイケル・ジョーダン、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス、映画監督のスティーブン・スピルバーグ。彼らはいずれも、幼少期は普通の子供でした。誰一人として、神童や名手として生まれついたわけではありません。彼らに共通するのは、誰にも負けない情熱と粘り強さ、つまり「グリット-やり抜く力」を持っていたことです。これから見えてくるのは、「天才」としか思えないような人びとは、常に「もっとうまくなりたい」という強い意欲と、興味と探求心を持ち続け、地道な努力を長年継続しており、それこそがまさに「超人的」であるということです。そのような超人的な努力を継続し、成功を収めるために最も重要なのが「グリット-やり抜く力」なのです。

 グリットは、たとえ最悪の状況下でもがき苦しんでいても、強い覚悟をもって戦い抜き、リスクをとり、極難を乗り越え、目標に向かって最後までやり遂げる能力のことです。飛び抜けた才能がなくても、必死に情熱と粘り強さで努力すれば誰でも成功できるのです。そして、グリッドの一番のよいところは、生まれつきのものでなく後天的に学習して鍛えることができるので、年齢に関係なく、いつでも、私たちはその努力を始められることです(1)。

 グリットとは、物事に対する情熱であり、物事の目的達成するためにとてつもなく長い時間、継続的に粘り強く努力することによって、物事を最後までやり遂げる力のことです。ダークワース教授によると、グリットは、「情熱」と「粘り強さ」の2つの要素で構成されています。「情熱」とは、自分の最も重要な目標に対して、興味を持ち続け、ひたむきに取り組むことです。つまり、ひとつのことにじっくりと長い間取り組む姿勢のことで同じ目標にどれだけ継続的に取り組んでいくかの能力です。そのためには、一つのことに注意を向けて取り組む集中力、最後には成功するという信念をもって行動するポジティブな展望力が要求されます。

 「粘り強さ」とは、困難や挫折を味わってもあきらめずに努力を続けることです。このためには、困難な状況で自分をコントロールできる冷静さ、不快な体験も受け入れる平静さ、いかに早く困難から回復するレジリエンス(復元力)が要求されます。「情熱」を燃やし続けるために要求される集中力、成功を信じてポジティブで前向きな自分を保つ展望力、「粘り強さ」を発揮するために必要な冷静さ、平静さ、レジリエンスは、誰でも自ら心の訓練をして強化できます。それがマインドフルネスの継続的な実践です。

 マインドフルネスの実践は、瞬間瞬間の自分の内外に起こっていることを気づき、受容、明晰、冷静、平静、レジリエンスなどの能力を上げていくものです。人一倍才能豊かでなくても、頭の切れる人でなくても、私たち誰もがマインドフルネスの実践を続けることができれば、グリットを向上することができるのです。

参考資料
(1) アンジェラ・ダックワース、やり抜く力、神崎朗子訳、ダイアモンド社、2016


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