VUCA時代に重要なメタ認知                     竹腰重徳

 私たちは、グローバル化の進展、AIの台頭、新型コロナの感染拡大、自然災害、環境汚染、資源の枯渇、国家間の対立など、私たちを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が困難な状態を意味するVUCA(目まぐるしく変動し、不確実で、複雑で、曖昧)と呼ばれている時代に生きています。

 VUCA時代では、過去の常識や成功パターンが通用しなくなり、より広い視野に立って物事を考える力が求められ、自分だけの利益や目先の繫栄ではなく、世界全体での持続的、多面的な意味での幸せを実現する能力が一人一人に求められます。そのために、これまでの経験をもとに着実に仕事を行う能力よりも、柔軟な発想で新しい考えを生み出し、自ら考え行動することのできる能力がより重要となります。自ら考え行動するためには、自分を知ることが必要です。自分を知ることを認知心理学ではメタ認知と呼びます。メタ認知は、客観的な自己、もうひとりの自分などと形容されるように、現在進行中の自分の思考や行動そのものを、もう一人の自分が一段高いところから認識することにより、自分自身の行動を客観的に冷静に把握し、制御できる能力のことで、VUCA時代に生きるための必須スキルといえるでしょう(1)。
 
 「認知」とは、何かの対象を見る・聞く・感じる・覚える・理解する・考えるなどの活動を通して、その対象について理解し、判断することです。「メタ」は「高次の」という意味があり、より高い観点から認知をとらえたものです。したがって「メタ認知」とは、自分の認知活動(知覚、感情、記憶、思考、判断など)を、より高い視点から客観的に捉え、適切な言動を行うようにすることです。つまり自分が能動的に行っている言動について、もう一人の自分が客観的な立場から、その言動を監視し状況に合わせてコントロールしていきます。

 メタ認知能力の高い人は、自分の知識や考え方が古くないか、過去の成功体験に流されていないか冷静に確認し、常に学び、柔軟な発想で新しい考えを生み出していきます。また、自分の思考や行動を高い視点から客観的に観察・分析できるので、適切な判断や行動ができます。人は偏見や思い込みで間違った判断をしてしまうことがありますが、メタ認知能力の高い人は自分が持つ偏見や思い込みに気づきやすく、正しい判断ができます。たとえ、間違った判断をしてしまっても、それに気づいて修正することができます。自分の感情や状況を冷静に見ることができるので、その場の雰囲気や気分で物事を決めたりせず、適切な決定をすることができるのです。メタ認知能力の高い人は、自分の言動を冷静に客観的にみることができ、自分の言動が人にどう受け取られるのかを推測できるので、人と適切な関係を結ぶことができます。また、空気を読むことができ、場面にあった態度を取ったり、発言をすることができます。さらに、もし対人関係でつまずいても、自分の行動を振り返り、相手に不愉快な思いをさせたのであれば謝罪したり、行動を改めたりできるので、大きなトラブルの前に対処できます。そしてコミュニケ―ション能力も高く、よりよい人間関係を構築できます。
 
 メタ認知能力は訓練により高めることができます。その方法の一つとして、マインドフルネス瞑想がお勧めです(2)。マインドフルネス瞑想は、「今この瞬間」に自分に起こっている思考・感情・身体感覚に注意を向け、好奇心をもってあるがままに観察して気づきを高める心の訓練法ですが、第三者的に自分を観察する訓練でもあるのです。もう一人の自分が第三者的に高いところから客観的に自分自身に注意を向け、観察し、あるがままに気づく訓練を繰り返して実践することにより、客観的に物事を捉え、冷静で適切な対応ができるようになり、メタ認知能力が強化されるのです。

参考資料
(1) 三宮真智子、メタ認知、中央公論新社、2022
(2) Sarita、Mindfulness: A key to improve metacognitive skills、International Education & Research Journal、2017


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