マインドフル・リーダー 竹腰重徳
マインドフル・リーダー(Mindful Leader)とは、ストレスがかかった場面でも自らの思考や行動を冷静に理解することができ、自分の影響下にある人々の潜在力を存分に発揮させられる能力を持った人のことです。この能力は、マインドフルネス瞑想というトレーニングを習慣化することにより身につけることができます(1)。 感情知性(EQ)の第一人者であるダニエル・ゴールマンは、現代のリーダーには、他人をコントロールし逐一管理するよりも、感情知性の高い能力が要求されると述べています(2)。感情知性の高いリーダーは、自己認識(気づき)と自己管理に加えて、共感という社会的能力や、最高のパフォーマンスをしてもらえるように周りの人間を感化して望ましい反応を引き出すような能力を持っています。これらの能力を持った感情知性の高いリーダーは、マインドフル・リーダーといえます。 マインドフルネスの提唱者で、マインドフルネス・ストレス低減法の開発者であるカバットジンは、「マインドフルネスとは、今という瞬間において、価値判断を加えることなく、注意を払うことである。こうすることで大きな気づき、明瞭さ、その瞬間の現実への受容力が養われていく。現在という瞬間には、その存在を認めて尊重しさえすれば、魔法のような特殊の力が秘められている。それは誰もが持っているかけがえのない瞬間である。私たちが知らなければならないのは、現在という瞬間だけだ。現在という瞬間だけを知覚し、学び、行動し、変え、癒さなければなりません。だからこそ、瞬間瞬間を意識することがとても大切である。瞑想とは瞬間瞬間の体験に注意を向けるためだけに行うものである」(3)と述べています。マインドフルネスとは、漢語で念(今の心)ですが、今この瞬間のみが自分が手にできるもののすべてであることを理解し、過去や未来ではなく、今を人生最大の焦点とすることです。それは今この瞬間の現実に身を任せ、受け入れて行動すること、「今・この瞬間」に注意を注ぎ続けることで、「今の現在」に感謝し意識的に生きる技法といえます。心は、過ぎた過去やまだ起こっていない未来に多く囚われがちですが、常に「今この瞬間の現在」に注意を向けるようにするトレーニングが、マインドフルネス瞑想です。 マインドフルネス瞑想により、自己認識と自己管理能力を向上させ、自己の感情に気づいて感情を制御できるようにすることで、リーダーに必要なストレスへの対処と感情知能を強化していくことができます。また、自分の周囲に起こりつつあることへの気づきを通して、社会的認識や人間関係の管理能力を改善させます。マインドフルネス瞑想の効果として次のようなものがあります(1)。 ・自分の感情、考え、振る舞いへの気づき ・物事に対する別の見方への気づき ・相手の考えや感情への気づき ・冷静な対応 ・複数の視点があるという気づき ・相手に対する思いやり ・「今ここに」への集中 ・目新しいものへの受容性 ・創造力の強化 マインドフルネス瞑想は、医療だけでなく職場に多くの効果が期待できることから、アップル、グーグル、ヤフー、スターバックス、フォードなどの多くの企業が導入し、マインドフル・リーダーを育て成果を上げています(1)。 参考資料 (1)スティーブン・マーフィ重松、スタンフォード大学マインドフルネス教室、坂井純子訳、講談社、2016 (2)ダニエル・ゴールマン、EQ心の知能指数、土屋京子訳、講談社,1998 (3)J・カバットジン、マインドフルネス・ストレス低減法、春木豊訳、北大路書房、2007 |
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