有酸素運動とマインドフルネスで脳の活性化               竹腰重徳

  人の脳神経細胞は20歳前後をピークに徐々に衰えていくといわれていますが、最近の研究で脳神経細胞に刺激を与えると、脳神経細胞は何歳になっても増えることがわかってきました。現在仕事や人間関係など何かとストレスの多い世の中ですが、ストレスや不安は、副腎皮質からコルチゾールというストレスホルモンが分泌され、慢性的なストレスにより過剰に分泌されると脳神経細胞を破壊してしまうこともあるとされています。しかし、脳神経細胞を増やすと、ストレスに負けない強い心を作ることができるとされています。人間を形作る骨や筋肉は「使えば成長し、使わなければ衰える」という真理が働いていますが、脳神経細胞においても例外ではないのです。

 機能的磁気共鳴画像装置(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)の発明により、脳のどの部分が活性化しているかをリアルタイムに表示できることができるようになり、脳科学の解明に役立っています。これにより、研究者たちは、脳がそれまで信じられていたような固定的なものでなく、神経経路が時間とともに変化していくことを発見し、脳は、訓練が可能で、私たちの感情や思考や反応を司る神経細胞の新生、維持、変化することが明らかになりました。
 
 脳神経細胞を増やすための効果的な方法を見てみましょう。
 有酸素運動の効果について、ダイエットやシェイプアップ、体力維持などを期待する人が多いかと思いますが、実はそれ以上に、脳の海馬や前頭葉に効果的な刺激を与え、若返らせるということがわかってきました。海馬は記憶力、前頭葉は脳の司令塔として、集中力、計画力、創造力、判断力、思考力、そして感情までも司っています。有酸素運動によって、脳由来神経栄養因子(BDNF:Brain-Derived Neurotrophic Factor)と呼ばれる脳にとって貴重なたんぱく質が分泌されます。BDNFは、主に大脳皮質や海馬で合成されるたんぱく質ですが、脳に計り知れないほどの素晴らしい恩恵を与えてくれる物質です。BDNFは脳細胞が他の物質によって傷ついたり、死んだりしないように保護してくれるだけでなく、新たに生まれた細胞を助け、初期段階にある細胞の生存や成長を促し、脳の細胞間の繋がりを強化し、学習や記憶の力を高めています。さらに、脳の可塑性を促して細胞の老化を遅らせる働きもしています。大人でも子供でも、高齢者でもBDNFは脳の健康に取って欠かせない存在です。BDNFは、脳の神経細胞の可塑性、新生、維持、生存を促進し、脳の機能回復や機能維持において重要で、海馬や前頭前野といった学習や記憶、高度な思考に必要な部位の神経細胞を保護、回復、新生する働きがあり、強いストレスによる意欲低下や「うつ」を防ぐだけでなく、記憶力の向上、認知力の向上をもたらしくれます。
 
 マインドフルネスとは、今この瞬間に体験している事柄に注意を向け、身体の感覚、感情、思考をありのままを認識し、良いとか悪いとか評価せずに体験を受け入れている心の状態のことです。心が過去にこだわるのではなく、将来について心配するのでなく、今自分が体験していることに注意集中して受入れている状態です。マインドフルネスの訓練を継続するにより、脳が今ここでやるべきことに集中できるようになり、集中力の向上、ストレス軽減、記憶力の向上、創造性の向上、免疫力の向上などの効果を生み出す脳の機能と構造に変化をもたらすことが脳科学的に立証されています。そして、マインドフルネス実践も有酸素運動と同じようにBDNFを増加させ脳の可塑性に役立つという報告もあります(3)。有酸素運動とマインドフルネスの実践活動を日常活動の中に大いに取れ入れて脳の活性化に役立てましょう。
 

参考資料
(1)アンダース・ハンセン、一流の頭脳、御舩由美子訳、サンマーク出版、2018
(2)重森健太、走れば脳は強くなる、クロスメディア・パブリッシング、2016
(3)The Effect of Mindfulness-Based Intervention on Brain-Derived Neurotrophic Factor (BDNF): A Systematic Review and Meta-Analysis of Controlled Trials、2020

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