マインドレスネスからマインドフルネスへ 竹腰重徳
マインドフルネス(Mindfulness)とは、今この瞬間に、心・身体・周囲で起こっていることに注意を集中して気づいている状態です。つまり、いま目の前で起こっている現象に意図的に注意を向けて、先入観なく観察し、評価や判断をしないで、あるがままに受け入れている状態です。この状態を作り出すための実践は、心を柔軟にし、何事にもオープンに受け入れ、起こっている現象に短絡的な反応ではなく、冷静に論理的に対応するようになります。そして、次のようなすばらしい脳科学的に実証された効果が導き出されます(1)。 ・ストレスの低減 ・集中力の向上 ・平静な対応 ・認知の柔軟性 ・記憶力の向上 ・創造性の向上 ・共感・思いやりの向上 マインドフルネスの実践が、こんなにすばらしい効果があるのに、なぜ私たちは、いつも、マインドフルネスの実践をしないのでしょうか? マインドレスネス(「Mindlessness」とは、マインドフルネスの反対の状態です。人間の行動、思考、感情の90%は無意識的で自動的なパターンで支配されているといわれています。人間の心は学習により、たくさんの動作をまとめ合わせひとつの活動として実践できる自動操縦機能が備わっていて、意識的に細かい作業ごとに心を働かさなくても、食べる、歩く、歯を磨く、電車に乗るなど一連の作業をスムーズに行うことができます。学習により習慣が形成され、それほど注意を払っていなくても、身体は目の前の作業を意識せずに自動操縦モードで処理できるようになります。自動操縦モードになっているとき、私たちは自動操縦モードであるとは気づかず、心は無意識の状態で、身体が自動的に動作しています。では自動操縦モードの時、肝心の心は、どこをほっつき歩いているのでしょうか?ほとんど過去や未来のことを考えています。そのため今やっていることに集中できず、注意散漫になります。また、心は一般的にネガティブ・バイアスがかかっており、ネガティブな物事を捉えがちで、過去の失敗や未来の不安に思いをより多く巡らせます。それが高じると次第に怒りや不安のループに陥ることになりかねません。そしてやがて心の病や身体の病を生じさせかねません。 人間の心は、マインドレスネスになるよう初期設定されており、マインドフルネスの実践が習慣になるよう訓練しなければ、マインドフルネスは身に付きません。そのために、ことあるごとにマインドフルネスの実践訓練を意識して実行することです(2)。 ・毎日時間を決めて3分~45分正式なマインドフルネスの訓練を繰り返す 背筋を伸ばして、肩の力を抜きリラックスして椅子に座り、手はゆっくりと膝の上に置き、自然な呼吸をしていきます。入る息と出る息の感覚(鼻あるいは胸、おなか)に注意を向けて呼吸の流れを観察します。しばらくすると、音や身体の他の感覚(痛みやかゆみなど)や過去のことや未来のことを考えたりする思考が心に生じたりして、意識が呼吸から逸れていきます。そのようなことが起きること自体は、自然なことで、悪いことはありません。訓練は、意識が呼吸から逸れたことに気づき、何の評価をせずに優しい気持ちで呼吸に意識を戻して呼吸を観察します。それを何度でも繰り返すのです ・マインドフルネスの実践を日常的な活動(歯磨き、食事、歩く、シャワーなど)の中に意識的に組み込む 例えば歯磨きをするとき、歯磨きのチューブを手にとって、キャップを外して、チューブを絞って、歯ブラシに歯磨き粉をつけ、口を開けて、歯ブラシを口の中に入れ、歯ブラシを上下左右に動かして、歯磨き粉の匂いや歯と歯茎の感覚を感じそれから水で口の中をすすぎ、吐き出す・・・という一連の動作をします。それを無意識に自動操縦モードではなく、歯磨きのチューブを手に取るところから水で口の中をすすぎ吐き出すまで、それぞれの動作に意識的に注意を集中して、ゆっくりと丁寧に歯磨きをするようにします。途中心が散漫になり何か他のことを考え出したら、それに気づいて、再び歯磨きの動作に注意を集中します。これがマインドフルネスの実践のミニ訓練となります。 ・日常経験するポジティブな事柄に焦点を当てて感謝する 私たちの心は、ネガティブなことに焦点を当てる傾向にあります。ポジティブな事柄に焦点を移すことで、全体的により幸せに感じることができ、寛容性や思いやりが高まります。朝気持ちよく目が覚めたこと、美味しい食事がとれたこと、楽しい会話ができたこと、体調が良いこと、1日が無事に終わったことなど、何事にも感謝して過ごすようにすることです。ネガティブ・バイアスが減少し、よりポジティブに考えるようになります。 参考資料 (1)ジョン・カバットジン、マインドフルネスストレス低減法、春木豊訳、北大路書房2017 (2)Hudson Therapy Group、Mindfulness vs. Mindlessness、2023 |
HOMEへ |