セルフ・コンパッションの誤解                   竹腰重徳

 セルフ・コンパッションが、ビジネス分野でもマインドフルネスとともに注目されてきました。セルフ・コンパッションとは、「苦悩や困難に直面をした時、自分の悪いところ良いところの両面を理解して起こっていることを受け入れ、苦悩や困難が人類に共通していることを認識して、自分自身に優しく温かい感情を高めて対処する能力」です。

 さて最近の研究ではマインドフルネスとセルフ・コンパッションの相乗効果により、チームのパフォーマンスの向上につながることが実証されてきています(1)。しかし、セルフ・コンパッションは、「自分への思いやり」と訳されているように自分に優しい気持を向けるという意味を持つため、「自分に甘い」「わがまま」「自己憐憫(じこれんびん)」「自尊心」などの概念と誤解されやすくなっています。実際はそのような概念と違い、セルフ・コンパッションは、ビジネスや生活に役に立つスキルなのです(2)。以下それぞれの項目についてセルフ・コンパッションにおける考え方を説明します。

 「自分に甘い」と、常に自分を自己正当化し、自分の非を認めたり、自分の弱さや乗り越えるべき課題と向き合うことが難しくなります。仕事で、自分が原因でトラブルや問題を起こしてしまった時も、「私は悪くない」という責任転嫁のスタンスで振る舞うこともあります。セルフ・コンパッションでは、逆に、自分の非を認めたり、自分の弱さや発生した問題を隠そうとせず受け入れ、それらを克服しようと努力をします。

 「わがまま」とは、相手やまわりの人たちの意に反して、無理な事でも自分がしたいようにすることです。わがままな人は、他の人と比べて自分の方が優れていると考えたり、自分のニーズしか見えず、相手のことを考えません。自分の能力についても生まれつき固定的と考え、努力をしても成長しないので意味がないと思っているので、成長の努力をしません。セルフ・コンパッションでは、他の人と比較はしませんし、自分だけでなくすべての人が幸せでいることに価値を感じ、他者に友好的に行動します。自分が成長して人生を良くしていくことが価値のあることだと思い、成長しようと努力をします。

 「自己憐憫」とは、自分をかわいそうに思うことです。人生をどうすることもできないもの、自分はいつも犠牲者で、運命には逆らえないなどと考え、自分の弱さばかりに目が向いている状態と言えます。セルフ・コンパッションでは、自分の弱さだけに目が向くのでなく、より幅広い視点で物事を捉えます。自分にだって強みも弱みもあって、努力すれば新しい力がつけられると思っています。自分の弱みだけでなく、強みにもしっかり目を向けます。

「自尊心」は、自分自身を肯定的に判断または評価することで生まれますが、自分を好ましい人間と信じて、自分の強みがわかっているという状態を指します。ただ自分自身を好ましいと信じている人の多くが、自分は他者よりも優れていると信じているということが研究で明らかになっています。自尊心の向上が他者からの肯定的評価や、自分自身で他者よりも優れていると信じなければならないとしたら、他者を批判しがちになり、他者に自分の弱さを見られるのを恐れるようになります。うまくいっているときはよき友達ですが、失敗した時や自分は駄目だと感じるときなど、一番必要なときは真っ先に見捨ててどこかに行ってしまいます。セルフ・コンパッションでは、自分を評価するときに、他者との比較ではなく、自分の価値観で評価します。何が起きていてもやさしく広い心で受け入れるだけです。たとえ自分の価値が下落したと感じたときでさえ、優しくそばにいてくれる頼れる存在です。

このようにセルフ・コンパッションを正しく理解して実践すれば、ビジネスや日常の生活に大いに役立てることができますので、セルフ・コンパッション向上の訓練をお勧めします。

参考資料
(1)ハーバードビジネスレビュー特集セルフ・コンパッション、ダイアモンド社、2019
(2)クリスティン・ネフ、クリストファー・ガーマー、マインドフル・セルフ・コンパッションワークブック、富田卓郎監訳、星和書店、2019

                     HOMEへ