マインドフル・リーダーシップを育む                 竹腰重徳

  マインドフルネスを最初に医療現場に導入し、その普及に最も貢献した一人であるジョン・カバットジンは、「マインドフルネスとは、意図的に、今この瞬間に、評価や判断をしないで、注意を払うことにより生じる気づき」と述べています。マインドフルネスが医療・心理分野に導入され、ストレス低減や心身の回復などポジティブな効果が科学的に実証され、数多くの成果を上げてきました。これらの成果から、欧米のビジネス業界にマインドフルネスがリーダーシップ・トレーニングの一環として取り入れられ、大きな成果を上げています。マインドフル・リーダーシップとは、あらゆる活動場面で今この瞬間に発生している事柄に意図的に注意を向けて集中し、ありのままに観察し、創造性と思いやりをもって人々を導いていくことです。マインドフル・リーダーシップがもたらす5つの特性は以下の通りです。

 最初の特性は、「今この瞬間への注意」です。今この瞬間に注意を向けることにより、取り組んでいるものへの集中力が向上し、精神的ストレスやミスを生じやすいマルチタスクを減らします。また他者との会話にも注意を集中するため、良好なコミュニケーションが行われることにつながり、よい人間関係が築けます。部下のパフォーマンスや持続的幸福に良い影響を及ぼします。

 二番目が、「意図的な心」です。意図的な心とは、何かを行うときは、目的を意識して行動するということです。これは無意識に起こるマインドワンダリングの逆で、上の空にならないことです。マインドフルネスの訓練により、心が対象としているものから逸れて他のことを考え出したら(これは自然なことで悪いことではありません)、それに気づき、再び対象としているものに意図的に注意を向けなおすことにより、今の課題により集中できる能力が向上します。

 三番目が「創造性」です。創造性による新しいアイデア、製品、イノベーションが、企業を成功に導きます。多くの企業では、マルチタスク、時間制限、課題の山積などストレスを生ずる厳しい環境にありますが、これらは創造性発揮を阻害します。マインドフルネスは、不安やストレスを和らげ、リラックスし穏やかな状態にしてくれ閃きや洞察が出やすくしてくれます。また、マインドフルネスでは、私たちの思考、感情、身体感覚、および周囲の環境で起こった現象に注意集中して観察し、良いとか悪いとか判断せずに受入れることを実践します。この実践により既知の情報から様々に考えをめぐらせ、新たなものを生み出していく拡散思考を高め、いろいろなアイデアを創出することができるようになります。

 四番目が「瞬間的に反応しない」です。私たちは複雑な問題解決のために、自動的思考をして暗黙のうちに簡便な解法や法則つまり経験則に頼ることが多くあります。これは判断に至る時間は速いが必ずしも正しいとは限らず、判断結果に一定の偏り(認知バイアス)が起こり、誤った判断につながります。マインドフルネスでは、現在起こっている対象に意図的に注意を向けて観察し、途中で注意が逸れて他のことを考えはじめますが、その内容や逸れたことを評価や判断をせずに、観察をしていた対象に意図的に戻すという訓練をします。マインドフルネス実践により、自動的思考による認知バイアスに気づき、状況を的確にとらえ客観的に判断する余裕を与え、認知バイアスを減らし、間違った判断をする可能性が少なくなります。

 五番目が「思いやり」です。思いやりは、他者や自分自身の身体的、精神的、または感情的な苦しみを和らげたいという思いです。思いやりは、他者の視点で判断できるようになり、人間関係も良好になり、幸福感を感じるようになります。マインドフルネスの訓練では、途中で注意が対象(呼吸など)から離れて心がさ迷いだしたらそれに気づいたときに、寛容で優しい気持ちで注意を対象に戻して集中しますが、それにより思いやる心が育まれるのです。自分や他者の幸せ願う言葉を繰り返す慈悲の瞑想の訓練も思いやりの心が育まれます。

参考資料
(1)https://www.mindevolved.org/blog/
mindful-leadership-definition-what-is-mindful-management-amp-why-is-it-essential-for-success、2019
(2)https://hbr.org/2017/08/can-10-minutes-of-meditation-make-you-more-creative、2017
(3)https://greatergood.berkeley.edu/article/item/does_mindfulness_make_you_compassionate、2013

                       HOMEへ