VUCA時代に注目されるOODAループ 竹腰重徳
急速に発達しているAI、IoT、ビッグデータ、ソーシャルメディアなどのITテクノロジー、新型コロナの感染拡大、自然災害、環境汚染、資源の枯渇、国家間の対立や戦争など、私たちを取り巻くビジネス環境も目まぐるしく変化し、先の予測が困難な状態を意味するVUCA(変化が激しく、不確実で、複雑で、曖昧)と呼ばれている時代に生きています。このVUCA時代の不確実性の高いビジネス環境の中で、現実を迅速に認識して決断して行動に移すOODA
ループと呼ばれる手法が脚光を浴びビジネスの世界に急激に広がりつつあります。 OODAループは、米国空軍の戦闘機パイロットで軍事戦略家あったジョン・ボイド(1927~1997)が、孫子の兵法の考え方をベースにして軍事だけでなくビジネスにも役立つ手法として開発したものです。彼はいつも一瞬にして空中戦闘で勝利する凄腕のパイロットであり、この勝利に要するほんのわずかな時間から「40秒ボイド」のニックネームを持っていました。そんな彼の強さの秘訣を一言でいうと、「行動に移す速さ(アジリティ:機敏性)」です。どんなに先の見えない状況の中でも迅速に意思決定を下し、行動に移して勝利に導きます。これこそが、ボイドが40秒ボイドたる所以でした。ボイドは、軍を引退した後に、人間の意思決定に関する研究に没頭し、その研究の末に作り上げたのがOODAループです。その研究の中には、ジンギス・ハンからドイツの電撃戦まで、戦争の歴史をつぶさに調査し、禅や宮本武蔵が書いた五輪書、大野耐一のトヨタ生産システム(TPS)などを学習し、その中に自身の戦闘哲学と同じ基本原則を見出しました。たとえば勝つ組織ではすべてのメンバーの創造性や自主性を重視して協調的であり、時間の重視や現場でのカイゼン活動に具体化されています。ボイドは、自分の実践経験やこれらの研究成果をベースに、単に戦争だけでなく、ビジネスを含むより一般的な競争の性質を明らかにし、OODAループ(ウーダループといいます)を開発しました。1989年に米国のビジネス界で有名な経営評論家、トム・ピーターズによって紹介されました。ピーターズはOODAループで定義されているアジリティ(敵を混乱に導くように、敵よりも状況判断を速く決断し実行することこそが「競争優位」の源泉であり、単なるスピードやサイズよりも重要であると述べています(1)。 OODAループとは、観察(Observe)、情勢判断(Orient)、意思決定(Decide)、行動(Act)という4つのフェーズをサイクルでなく、ループさせることで、目の前で起こっている環境に合わせた判断を現場レベルで迅速に行い、組織の目的を達成するための高速意思決定手法です。まず、取り巻く環境(自分自身や敵の物理的、心理的、精神状況含む)を観察し、観察したものすべてが何を意味するかについて、文化や過去の経験などから分析・統合して情勢判断をしてどうするかの方向性を出し、意思決定を行い、行動するといったプロセスの中で、直観力を重視し機敏な行動に結び付けます。組織がOODAループを高速に回してアジリティを高めるためには、組織文化が基礎になります。チームメンバーが同じゴールを目指す組織が共通して持つOODAループのアジリティ文化は、つぎのようなものです(1)。 ・一体感、結束力を高める相互信頼を醸成している ・無意識のうちに直観的能力を活用している ・現場の主導性を高めるリーダーシップを実行している ・行動を完遂するためのぶれない焦点と方向性を決めている イノベーションを生み出すリーンスタートアップの構築-計測-学習フィードバックリープはOODAループを参考にしています(2)。また、スクラムを立ち上げたジェフ・サザーランドは米国空軍のパイロット時代にOODAループを実践した経験を持っていますが、スクラムにOODAループのコンセプトが取り込まれています(3)。 OODAループは、外部の世界で起こっている目まぐるしい環境変化に即応して自らの方向性を迅速に適応させる企業になるのに大変役に立つ手法です(1)。 参考資料 (1)チェット・リチャーズ、OODA LOOP(ウーダループ)、原田勉(訳・解説)、東洋経済、2019 (2)エリック・リース、リーンスタートアップ、井口耕二訳、日経BP、2012 (3)https://www.scruminc.com/on-fighter-pilots-and-product-owners/ |
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