反射的反応を賢い応答に変える心の訓練                   竹腰重徳

  私たちは、変化が激しく不確実で複雑で曖昧な日常生活のなかで、様々なことが起こり、多くの外部からの刺激やストレスを受けています。刺激やストレスに瞬間的に心が「反応Reaction)」し、カッとなって言わなくてよいことをつい言ってしまったり、美味しそうな食べ物が目に入ると、つい目先の誘惑に負けて反射的に食べてしまったりして、後悔することがあります。心が反応ではなく、賢く「応答(Response)」することができれば、長期の視点で理にかなった行動がとれ、他の人々とのよい関係を築くことができたり、仕事やスポーツや日常生活などいろいろな面で、望ましい成果を上げる可能性が高くなります。

 反応と応答の違いは何でしょうか?反応は、刺激やストレスに対して瞬間的、本能的、反射的な行動です。それは無意識の行動で、行動の結果を考えない自動操縦(Auto-pilot)といわれる行動となります。反応は、脳の部位である喜怒哀楽を司る扁桃体が重要な役割を果たします。扁桃体は、危険を避け生命維持のために関係しています。人間の脳はこの部位が先に発達します。幼い子供は常に反応することで自分自身を表現します。どのように応答するのがよいかの判断がつき始めるのは、ある程度成長してからです。危険を感じた時に発生する「戦うか/逃げるか/固まるか」の反応は、この部位が引き起こします。ここでの反応は、瞬間的に近視眼的な感情的な行動になり、その結果は悲惨なものになる危険があります。もちろん、反応が悪いばかりではありません。危険にさらされ、自分を守るために自動的に素早く反応することで救われることもあります。

 一方、応答は、刺激やストレスに対して状況を判断し、考えたうえで慎重な行動するという意味で、瞬間的ではなく、損得を考えたうえで賢く対応するというニュアンスがあります。応答は、脳の部位である前頭前皮質で引き起こされます。前頭前皮質は、人間脳と呼ばれ、脳の司令塔としての役割を持ち、複雑な認知行動の計画、人格の発現、適切な社会的行動の調節に関わっているとされ、思考や行動の中心となるさまざまな機能を担っています。私たちが応答するときは、起こっている刺激やストレスに気づくことにより、前頭前皮質が扁桃体を抑えて反応することを止め、なぜそれが発生したのか、どのようにしたらよいのか、周りにどんな影響を与えるかなどを長期的な視野にたって論理的に考えて決定します。私たちは常に良い応答をするとは限りませんが、少なくとも前頭前皮質をつかって知能を働かせますので、ほとんどの場合、最終結果を良い方向に導きます。

 なぜ、人は応答するよりも反応しやすいのか?私たちが反応するとき、自動操縦モードで瞬時に起こりますので、意志力も、自制心も、精神力も、他人への配慮もありません。私たちの脳はできるだけ少ないエネルギーを使用することを好み、反応することが生まれた時の初期設定になっています。私たちが応答するとき、反応したいという自動的な衝動を抑えなければなりません。これには、気づきと自己コントロールが必要です。これらは成長とともに向上していきますが、十分ではありません。どのようにしたら、刺激やストレスに瞬間的な反応ではなく、賢く応答できるようになるのでしょうか?

 刺激やストレスに自動操縦で反応しようとしていることに気づき、反応を一旦止めて賢明な判断をして応答するように心の習慣を変えることです。これに役立つのが、マインドフルネスの訓練です。マインドフルネスの訓練では、自分の呼吸や身体感覚などに意図的に注意を集中して観察し、感覚、感情、思考などにより注意が逸れたら、そのことに気づき、何も評価せずに、再び注意を向けていた対象にやさしく戻すということを訓練します。この訓練により、気づきと自己コントロールが強化され、習慣的になっている自動操縦による反応を一旦停止して、前頭前皮質による理知的な判断の機会をもたらし、論理的な応答ができるようになります。



参考資料
(1)Response Vs Reaction-12 Important Differences(2023)
  https://www.coaching-online.org/response-vs-reaction/
(2)リチャード・デビッドソン/シャロン・ベグリー、脳には、自分を変える「6つの力」がある、茂木健一訳、三笠書房、2013

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