セルフコントロールを向上させるマインドフルネス             竹腰重徳

  私たちは目標を達成するためには、さまざまな困難や誘惑を乗り越えていかなければなりません。自分をコントロールしながら、未来を信じ、目標に向かう人の姿は尊いものです。このように目標達成のために自分自身をコントロールすることが、セルフコントロール(自制心)です。つまり、セルフコントロールとは、望ましくない行動を避け、望ましい行動を増やし、長期的な目標を達成するために、自分の思考、感情、行動を抑制したり調整したりすることです。

 では、セルフコントロールができないと、どのようになるでしょうか。例を挙げます。
  「資料を早めに用意しようと思っているが、SNSに気を取られる」
  「勉強をしなくてはならないが、ゲームがしたい」
  「お金を節約しないといけないのに、欲しい物が出るとつい買ってしまう」
 このように、目の前の欲望や誘惑に駆られてセルフコントロールできないと、より重要な将来の目標は達成できません。今この瞬間に目先の魅力的に思える行動よりも、将来のことを考えた長期的なメリットが得られる行動がとれるようにしてくれるのが、セルフコントロールです。セルフコントロールができれば「いまケーキを食べたいけれど、食べたら太ってしまうから、食べるのをやめよう」といった具合に、今の欲望や誘惑より、将来の結果を考えたより望ましい行動を取れるようになります。

セルフコントロールがなぜ重要なのかという理由がさまざまなデータや研究から明らかになっています。日常生活におけるセルフコントロールの成否の一つひとつが小さなものであっても、それを日々積み重ねていくことは、長期的な視点から見たときに私たちの人生に大きく影響を及ぼしています。強いセルフコントロールを持った人は、より健康的で、人々から信頼され、よりよい人間関係を保ち、金銭的にも恵まれ、学業や仕事での高いパフォーマンスをあげ、人生における幸せ感や満足感が高いなど、私たちの人生にポジティブな影響を及ぼします。

 セルフコントロールは筋肉と同じように、訓練により向上することが分かっています。その有力な方法の一つが、マインドフルネスです。セルフコントロールのためには、必要に応じて自らの注意を能動的にコントロールすることが重要となるため、「今この瞬間に生じている自分自身の体験に対して余計な判断を加えず、優しく注意を向けで観察する」というマインドフルネスの訓練は、セルフコントロールの向上に有効であるとされています。

 マインドフルネスの訓練では、自分の呼吸や身体感覚などに注意を向けているとき、感覚、感情、思考などにより注意が逸れたことに気づいたら、再び注意を向けていた対象にやさしく戻すことが求められます。この気づきが、習慣的になっている自動思考による行動の決定を一旦停止して、脳の前頭前皮質による理知的な判断の機会をもたらし、現在の欲望と長期的に見たメリットを比較した論理的な決定ができるようになります。例えば、美味しそうなケーキを見て、すぐ食べたいという欲望に対して自動操縦的に食べてしまうのでなく、その欲望に気づいたら前頭前皮質が働きだし、これから先の健康を考慮に入れたうえで、食べるかどうかを適切に考えて決定するということです。さらにマインドフルネスの訓練により、前頭前皮質や島皮質の部分の灰白質(神経細胞の細胞体)の量が増えます。そうすると、それらの部位が活性化されます。前頭前皮質では、認知力、記憶力、集中力、論理的考える力などが強化され、適切な判断をする能力が高まります。島皮質では、共感や自己認識力が高まり、内外に生じている現象に気づく能力が向上します。また私たちが生きていくうえで必要な本能的欲求や喜怒哀楽などの感情を感じる部位である大脳辺縁系の活動は弱くなり、感情的機能が抑えられ、ストレスが低減して、イライラしたり攻撃的になったりせず、忍耐力や気づく能力が向上し、冷静に考えた対応できるようになります。

参考資料
(1)尾崎由佳、自制心の足りないあなたへセルフコントロールの心理学」ちとせプレス、2020
(2)森口佑介、自分をコントロールする力、講談社新書、2019
(3)Shahram Heshmat、7 lessons in self-control we can learn from mindfulness、2018
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