モチベーションを高めるセルフ・コンパッション                  竹腰重徳

 セルフ・コンパッションとは、親しい友人が苦しんでいるのを見たとき、相手に対して思いやる気持ちが芽生えるように、自分が苦しいとき、それをありのまま受け入れ、苦しみが人類に共通していることを認識して、自分自身に優しく思いやりの感情を高めて苦しみに対処する能力のことです。セルフ・コンパッションは、モチベーションを高める効果があることが科学的に実証されています(1)。

 一般的に人はネガティブな情報を避けようとし、自分の欠点や失敗から目をそらそうとする傾向がありますが、自分に優しく思いやりを持って接することで、現在の自分が冷静にありのままに見え、受け入れることができます。欠点や失敗を含めてありのままに見ることで、今の自分にとって何が必要なのか、どうすれば成長できるのかと、客観的な視点から考えることができます。今の自分にとって、必要なことがわかると、前向きな姿勢になり、自然とモチベーションが出てきます。また、失敗や挫折をしても自分を過度に批判しないため、自信を失わず、逆境からの立ち直りが早くなります。立ち直りが早い分、新たな挑戦意欲が高まります。

 セルフ・コンパッションは、自分の心を安全・安心な気持ちにしてくれます。安全を感じることが、何か行動を起こす、何かを学ぼうとするときの前提になります。自尊心は他者との比較の上で成り立ちますが、セルフ・コンパッションは、他者との比較は行いません。自分の評価が良くても悪くても、それをあるがままに優しく受け入れ、嫉妬や怒りに支配されることはありません。成功や失敗に一喜一憂することなく、困難に直面しても、自分の中で持続可能な範囲で行動を行うという姿勢に結びつきます。私たちは人間なので、失敗はつきものです。欠点もあります。失敗や欠点は、私たちの人格を決めるものではありません。失敗も欠点も一時的なもので、変化するものです。人格が傷つくのを恐れると、失敗を否定しやすくなります。失敗に対して自己批判するとネガティブな感情を引き起こし、ネガティブな感情に支配されると視野が狭くなってしまいます。セルフ・コンパッションは、ネガティブな感情をなくすのではなく、思いやりと優しさによって受け入れることです。それにより、困難に冷静に対応できるようになり、モチベーションが高まり、最適な対処法が選択できるようになります。

 セルフ・コンパッションを高めるための方法の一つに、慈悲の瞑想の実践があります(2)。慈悲の瞑想は、自分や他者の幸せを願う瞑想です。身体をリラックスして、最初に自分の良いところを2、3思い出し、ゆっくり優しく丁寧に次のようなフレーズを繰り返します。「私が幸せでありますように、私が安全でありますように、私が健康でありますように、私の悩みや苦しみがなくなりますように、私の心が安らぎますように」。次に対象を親しい人たち、直接関係のない普通の人たち、嫌いな人たち、最後にすべての生命(生きとし生けるもの)と対象を広げていきます。毎日慈悲の瞑想を繰り返し続けると自分や他者に対する思いやりが心の習慣になります。また、さまざまな対人場面の前で慈悲の瞑想をすることで、自分の感情を受け入れ、平静な自分になり、他者の感情も理解でき、怒っている人や困っている人を助けようという気持ちで接することができるようになります。効果は科学的に立証されていますし、実践を習慣にするとその効果を実感できるようになります。

参考資料
(1)JG Breines、Serena Chen、Self-compassion Increases Self-Improvement Motivation、SAGE、2012
(2)クリスティン・ネフ、クリストファー・ガーナ―、マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック、富田卓郎監訳、成和書店、2019



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