只管打座とマインドフルネス瞑想                      竹腰重徳

  「マインドフルネスストレス低減法」は、1979年マサチューセッツ大学医学大学院教授のジョン・カバットジンによって、ストレス低減プログラムとして創始されたものです。このプログラムは、マインドフルネス瞑想とヨーガを基本とした治療法で、慢性疼痛、心身症、摂食障害、不安障害、感情障害などにかなりの効果を上げ、マインドフルネス瞑想の先駆けとなりました。マインドフルネス瞑想は、ビジネス分野でも利用が拡がり、社員のメンタルヘルス対策として、モチベーション、集中力、創造性、記憶力、生産性などの向上や改善のために、人材フォローの一環として取り入れる企業が多くなっています。また、教育やスポーツ分野などいろいろな領域に利用が広がっています。
カバットジンは、1960年代初期に、初めて日本の禅というものを教えてくれたのは、鈴木大拙で、その後鈴木俊隆著の“禅マインド ビギナーズ・マインド”に出会い、本格的に瞑想の精神を探求する道に足を踏み入れるようになりました。日本の禅宗の創始者である偉大な道元禅師の優れた思想にも大きな影響を受けたと述べています(1)。

 彼は、「マインドフルネスストレス低減法」の中で、さらに次のように記述しています。
マインドフルネス瞑想というものは、“今”という瞬間に完全に注意を集中するという方法です。これは、仏教における瞑想の中核といわれており、禅宗をはじめとして、そのほかの仏教宗派でも非常に重んじられているものです。しかし、ブッダも強調しているようにマインドフルネス瞑想は、仏教徒以外の人が普通の生活に広く応用できる普遍性を備えているのです。多くのアメリカ人が、新しい生活や新しい生き方をめざし、この古から実践されてきたマインドフルネス瞑想を取り入れ、それが肉体的にも精神的にも大変役立っていることを、日本の方々に是非お知らせしたいと思います。「マインドフルネスストレス低減法」のマインドフルネス瞑想は注意集中力を高めるためのトレーニングを体系的に組み立てたもので、アジアの仏教にルーツを持つ瞑想の一つの形式を基本としています。注意を集中するということは、“一つひとつの瞬間に注意を向ける”という単純な方法です。この力は、今までは全く意識していなかったことに、注意を払うことによって高まってきます。つまり、マインドフルネス瞑想法は、リラクセーション(緊張がゆるみ、安らいでいる状態)、注意力、意識、洞察力をもたらす潜在的な能力を活かして、自分の人生を上手に管理する新しい力を開発するための体系的な方法なのです。

 今から800年ほど前の鎌倉時代に、道元禅師が禅を学ぶために中国にわたり、日本に持ち帰り、日本の「曹洞宗」の礎を築きました(2)(3)。曹洞宗の教えの根幹は坐禅です。それはブッダが坐禅の修行に精進し、悟りをひらいたことに由来するものです。禅とは、物事の真実の姿、あり方を見極めて、これに正しく対応していく心のはたらきを整えることを指します。そして坐ることで身体を安定させ、呼吸に注意を集中させることにより、身体・呼吸・心の調和を図ります。曹洞宗の坐禅は「只管打坐(しかんたざ)」といい、何かを得ようと目的をもって坐るのでなく、ただひたすらに無心に坐るということを意味します。身体を安定させただ坐り、湧き上がってくる自分の思いを手放すことを続けます。座ること自体が大切で、座ってから心を使って何かをする必要ないのです(3)。

 カバットジンは、マインドフルネス瞑想をさまざまな思惑や欲望に惑わされないで実践するために、自分で評価を下さない、忍耐強い、初心を忘れない、自分を信じる、むやみに努力しない、受け入れる、とらわれない、の7つの瞑想心構えを念頭において、どんな思考や感情にもとらわれることなくただひたすら瞑想を実践することが大切で、それによりマインドフルネス瞑想の効果を享受することができると述べています。座って瞑想するときは、「私はリラックスしようといている、痛みをコントロールしようとしている、集中力を上げようとしている」などの目的意識を起こさず、生じてくる思いを手放し、ただひたすら呼吸や身体などで起きていることに注意を集中して実践するというようにアドバイスしています(1)。

参考資料
(1)ジョン・カバットジン、マインドフルネスストレス低減法、春木豊訳、北大路書房2007
(2)ひろさちや、道元 正法眼蔵、NHK出版、2018
(3)山下良道、「マインドフルネスX禅」であなたの雑念はすっきり消える、集英社2018

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