セルフ・コンパッションを高めて仕事を始める 竹腰重徳
セルフ・コンパッション(自己への思いやり)とは、自分が失敗や困難に遭遇したとき、ありのままに受入れ、失敗や困難は誰にでも共通して起こることだと認識し、自分自身に優しく思いやりの感情を高め、失敗や困難にポジティブに対処する能力のことです。一般的に人はネガティブな情報を避けようとし、自分の欠点や失敗から目をそらそうとする傾向がありますが、それを受入れ、自分に優しく思いやりを持って接することで、ポジティブに課題に接することができ、今の自分にとって何が必要なのか、どうしたら対処できるのかと、客観的な視点から考えることができるようになります。今の自分にとって、必要なことがわかると、前向きな姿勢になり、自然とモチベーションが出てきます。このようにセルフ・コンパッションの能力が高まると、ストレスや困難から生じたネガティブ感情を受け入れ、ポジティブ感情に変えて、自分の心を安全・安心な気持ちにしてくれ、柔軟に課題に対応できるようになります。これらの効果は、科学的に実証されています(1)。 セルフ・コンパッションを高める有効的な方法として、慈しみの瞑想とマインドフルネス瞑想の両方を実践することがおすすめです(1)。慈しみの瞑想は、「私が幸せでありますように」や「ほかの人たちも幸せでありますように」といった自分と他者の幸せを願う言葉を心に念じて、慈しみのエネルギーを自分に、そして外に向けていきます。この瞑想により、自分や他者に対する思いやりの心が育み、優しさや喜び、充実感、幸せ感などのポジティブ感情が高まり、苦しみや困難に対してポジティブに対応できるようになります。マインドフルネス瞑想により、気づきの能力や集中力が向上し、自分が失敗や困難に遭遇した時でも、物事をありのままに受入れることができ、客観的な対応が可能となります。慈しみの瞑想とマインドフルネス瞑想を毎日短時間でも継続して実践することにより、自己への思いやりの気持ちと気づきと集中力が高まり、何事にも失敗を恐れず、自信をもって、仕事がスタートできるようになります。これらの効果はスタンフォード大学やウィスコンシン大学など様々な研究機関で実証されています(2)。 仕事を始める前に、それぞれの瞑想を3分間位実践してから仕事をスタートするとよいでしょう。まず慈しみの瞑想を行います。静かなところで椅子に座って体をリラックスします。そして次のような慈しみの言葉を対象者に向かって心の中で優しく唱えます。慈しみを願う対象者は、自分から始めて、チーム、関係者、すべての人々へと展開して時間まで繰り返し念じます。自分に対しては「私」、チームには「チーム」、関係者には「関係者」、すべての人々には「すべての人々」と変えて唱えます。 「私が、健康で幸せでありますように」 「私の悩み苦しみに耐えられますように」 「私の困難が克服できますように」 「私の願いごとがかなえられますように」 繰り返して唱えることにより、思いやりやポジティブな感情を司る脳の領域が次第に活性化され、定着化していきます。 引き続きマインドフルネスの呼吸瞑想を行います。椅子に座り、背筋をまっすぐに伸ばし、肩の力を抜いてリラックスして自然な呼吸をします。吸ったり吐いたりする感覚に注意を集中して呼吸を観察します。しばらくすると、意識は呼吸から逸れ、外の音や身体のかゆみや痛みなどの感覚や過去や未来のことを考えたりして意識が呼吸から逸れます。そのようなことが起きること自体は自然なことで、悪いことではありません。生じた感覚や思考や感情に気づき、やさしく呼吸に意識を戻します。心が呼吸から逸れたことに気づき呼吸に注意を引き戻すのがあなたの仕事です。感覚や思いや感情が出てきたことに気づいて、やさしく呼吸に意識を戻します。何度でも繰り返します。注意が逸れたことに気づいた、ということ自体がマインドフルネスの練習なのです。このマインドフルネスの訓練により気づく能力や集中力が向上し、どんな場合でも物事をあるがままに捉え、冷静な対応が可能となります。 参考文献 (1)クリスティン・ネフ,クリストファー・ガーマー、マインドフル・セルフ・コンパッション・ワークブック、富田拓郎監訳、大宮総一郎他訳、星和書店、2019 (2)バンテ・ヘーネポラ・グナラタナ、慈悲の瞑想、出村佳子訳、春秋社、2018 |
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