ワーキングメモリを改善するマインドフルネス                      竹腰重徳

   ワーキングメモリとは、作動記憶、作業記憶とも呼ばれ、脳の働きの一つで、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する働きをします。つまり、仕事、家事、趣味まで、日常生活の中でさまざまな行動をするとき、行動の目標やプランを記憶しておくために必要な一時的な短期記憶能力です。会話や読み書き、計算、学習などの基礎となり、私たちの日常生活の行動を支える重要な認知機能です(1)。例えば、電話をかけるために電話番号を見て電話番号をさっと覚え、電話を手に取り番号を押すまでの数秒間は、電話番号を記憶することができます。しかし、電話を終えた途端に、かけたばかりの電話番号をすっかり忘れてしまう、ということはよくあります。電話番号の例からわかるように、ワーキングメモリは、ごく短い間だけ情報を記憶する能力です。ワーキングメモリでは、新しい情報が入ってくると古い情報はどんどん消されていきます。また、ワーキングメモリの容量は非常に少ないのです。情報量がワーキングメモリの容量を超えると、ワーキングメモリに蓄えられた情報は次から次へと押し出されてしまいます。

 もともと容量が少ないワーキングメモリですが、もしワーキングメモリの容量が低下すると、何が起きてしまうでしょうか。「何かを取りに来たはずだが、来てみると何が目的だったか忘れてしまった」という経験がたまにありますが、それが、典型的なワーキングメモリがうまく動作していない状態になるのです。このような状態が起こると、仕事の処理速度が落ちたり、ケアレスミスを頻発したり、何度も同じ作業を繰り返したり、仕事の効率に悪い影響が出るのは必須です。

 私たちは、毎日、他の人と適切に対話し、指示を理解して従うこと、理解して読むこと、安全に運転すること、タイムリーに仕事を実行することなど、あらゆる種類の作業にワーキングメモリを使います。このようにワーキングメモリは私たちが生活の中で、うまくやっていくために、非常に重要な認知機能です。ワーキングメモリの働きが改善すれば、仕事の効率が向上するはずです。

 ワーキングメモリを改善する方法の一つが、マインドフルネスの実践です。カルフォルニア大学サンタバーバラ校が2013年に実施した研究報告があります(2)。2週間のマインドフルネスの訓練がマインドワンダリングを減らし、かつ認知機能が向上(ワーキングメモリの容量の増加)するかどうかを検証するために、48人(男性14名、女性24名)の学生を対象に、マインドフルネスの訓練群(26名)、もしくは栄養学の授業クラス群(22名)に無作為に分けて2週間実施されました。結果は、マインドフルネス訓練(45分を週4回、2週間)では、ワーキングメモリ容量の向上をもたらすとともに、マインドワンダリングの発生を減少させることが検証されました。マインドワンダリングは、意識が目の前の課題から注意が逸れて心がここにあらずの状態になり、目の前の作業とは無関係なことを考え始めてしまい、認知能力の低下につながります。 

 マインドフルネスの訓練では、今この瞬間に経験している特定の対象(例えば呼吸)を選択して、その対象に意図的に注意を集中して観察します。選択したものに注意を向けて観察している間、注意が逸れて心がマインドワンダリングの状態になっていることに気づいたら、再び選択したものに注意を集中するという繰り返しをします。この訓練は、注意集中力向上とともに認知機能が改善し、ストレス低減の効果もあります。毎日定期的にマインドフルネスの訓練することがおすすめです。

参考資料
(1)https://hama8.hiroshima-u.ac.jp/working_memory.html
(2)Mrazec,MD, et al、 Mindfulness Training Improves Working Memory Capacity and GRE Performance While Reducing Mind Wandering、Psychological Science、Volume: 24 issue: 5, page(s): 776-781.(2013)
(3)https://mindfulness-alliance.org/2019/11/04/mindfulness-and-working-memory/

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