アジャイル開発のリーダーシップ

  あらゆる産業で市場の競争が激しくなっており、市場変化の迅速化に対応してアジャイル開発に対する期待が米国のみならず、日本国内でも高まりつつある。アジャイル開発は、変化する顧客の要求事項に迅速に実現づるために、モチベーションの高い自己組織的チームと顧客とのコラボレーションによって実施される反復的、漸進的な方法である。顧客の変更要求に容易に対応し、顧客の要求に合った高品質のソフトウェアを作成することが可能となる。計画よりもビジネスの価値を重視した考え方が根底にある。

 ウォーターフォール型開発では、一般的に、まず要求(スコープ)を固定させてリソースと期間を見積もるというやり方をするが、アジャイル開発では、まずリソースと期日を固定させたうえで、その前提条件の中で、どう作れば一番価値の高いシステムが作れるかという考え方をし、限られた資源の中で何から順番に作ればいいのか、何を省けばいいのかという発想で実行する。

 アジャイル開発のプロセスは、まず、顧客ニーズを優先順位付けした要求事項をいつ完成するかをリリース計画として作成する。次にアジャイル開発チームの作業能力や容量をみて反復期間の対象となる優先順位の高い要求事項を選択し、機能と作業量を見積もり、優先順位付けした反復計画を作る。そして、アジャイル開発チームは反復計画の優先順位の高い機能から反復を開始し、設計、開発、テストの作業をして動くソフトウェアを作り出し、顧客の評価を得、問題があれば直ちに手直しし、問題がなければ次の機能に取り掛かる。小さなロットで追加的に要求をつけたしていくイメージである。

 アジャイル開発プロジェクトの組織体制は、顧客の要求事項収集やプロダクト・バックログの管理を行うプロダクト開発の責任者であるプロダクト・オーナー、プロダクトの機能を反復的に納品する責任を持ち、開発、テスト、品質保証、文書化を自律的に実施をするアジャイル開発チーム、アジャイル開発チームが、自律的にチーム目標を達成することを支援するプロジェクトマネジャー、特定知識、スキルの提供を支援する支援スタッフから構成される。

 アジャイル開発チームは、一般的な企業の組織形態と異なり、指示命令系統となる職務上の上下関係・権限等はなく、水平の関係におけるコミュニケーション・信頼関係・自律性・協調といったキーワードが極めて重要になる。このようなチームは、自己組織的チームといわれ、すばらしい創造的なアイデアの発想ができ、問題解決が可能となる。

 プロジェクトマネジャーは、チームを自己組織的チームに導くため、指示管理的なリーダーシップではなく、チームメンバーの要求や成長を第一に考え、チームメンバーのやる気を引き出し、チームメンバーが協力して、チーム自らが課題を円滑かつ効果的に対処できるよう支援するコラボレーション型リーダーシップスタイルが必要となる。

 コラボレーション型リーダーシップスタイルを支えるリーダーシップとしては、ロバート・グリーンリーフが約40年前に提唱し、多くの著名なリーダーシップの専門家に賞賛されているサーバント・リーダーシップがある。リーダーは明確な夢やビジョンを描き、それをメンバーと一緒に実現するためには、まず最初に、メンバーのニーズを最優先することによって信頼を得て、導いていくやり方で、従来の指示管理型リーダーシップと対極のものである。

 前グリーンリーフ・センター代表のラリー・スピアーズは、サーバント・リーダーシップの特性として、傾聴、共感、癒し、気づき、説得、概念化、先見、スチュワードシップ、人々の成長、コミュニティ作りの10個に分類している。

 傾聴とは、他者のニーズ・要望を聴く能力、共感とは、相手の立場・視点で相手を理解する能力、癒しとは、自分や相手の精神面や感情面に注目し悲しみや悩みを癒す能力、気づきとは、自分自身や他者・環境を認識する能力、説得とは、相手に行動すべき内容を納得させて行動を決定させる能力、概念化とは、夢や目指すゴールやビジョンの具体的なイメージを描く能力、先見とは、過去から学び、現実を見、未来への道筋を示す能力、スチュワードシップとは、謙虚さと思いやりを持ち責任を持って高い成果を上げる能力、人々の成長とは、人々の成長を助ける能力、コミュニティ作りとは、よいコミュニティを作る能力である。

 これらの特性は、生まれつき備わったものではなく,各自自分の現状の特性を自己評価し、強化したい特性を選択して学習と実践をすることにより、能力を向上することができ、アジャイル開発プロジェクトを成功に導くことができる。

                    アジャイル・リーダーシップ研修

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