リスク・ベースド・アプローチ(Risk-Based Approach)

 リスクとは、「目的に対する不確かさの影響」(ISO31000:2009)と定義されています。リスクベースド・アプローチ(リスクベース・アプローチともいう)は、リスクアセスメントに基づいて意思決定をする考え方です。その基本は、基本安全規格であるISO/IEC Guide 51やリスクマネジメントの基本規格であるISO Guide73で示されています。それは、費用と便益との兼ね合いを社会が受け入れる基準を用いてコントロールするという考え方がベースとなっています。この考え方は、システム、製品開発、医療分野などにおいて安全を担保するために取り入れられています。FDA(アメリカ食品医薬品局)やICH(日米欧医薬品規制調和国際会議)では、リスクベースド・アプローチを取り入れたガイドラインを発表しています。また、近年のISOの安全系規格(ISO12100やISO14971)においてもリスクベースド・アプローチが取り入れられています。しかし、それが組織において十分機能していないために発生している事故があることも事実です。

 企業活動においてもリスクベースド・アプローチを取り入れたマネジメントの重要性が増しています。これは企業活動をとりまく環境が、ますます複雑になり不確かさが増していることに起因します。このような環境のもとで組織が持続的な成功を遂げるには、リスクベースド・アプローチが有効な考え方です。ISO9004:2009(組織の持続的成功のための運営管理)においても、リスクアセスメントによる意思決定を戦略の展開の中で有効に利用すべきことを述べています。

 リスクベースド・アプローチの効用は2つあります。まず第1に、組織活動の意思決定に対して、「この決定により、今後どうなるか」を考える組織文化が形成されるようになるということです。組織のあらゆる活動にはリスクが含まれます。リスクへの対処は組織の目標達成に大きな影響を与えます。そこで、常に発生しうる事象に対する対応を考えておくことは重要です。第2に、既に発生した事象(事実)に注意を払い、それを考慮した対応が可能になることです。有名なハインリッヒの法則に見られるように、小さな事象を見逃さないことが大きな失敗をしないことにつながります。過去から将来へ、あらゆる事象をリスク視点で評価し、意思決定を行うことがリスクベースド・アプローチのポイントです。機械、プラント、医療の分野で発展してきたリスクベースド・アプローチは、新しいサービスの提供、各種マネジメントシステムの運用、組織学習に対して効果を発揮する取り組みと言えます。
 (アイネットパートナー 河合 一夫)
   リスクベースド・アプローチ手法の基礎研修
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