社会的知性(Social Intelligence−SI or SQ)

1.はじめに

EQとは「Emotional Intelligence=感情的知性、心の知能指数」のことで、個々の個人に頂点をあて、自分自身の感情を理解し、感情をコントロールする能力をいいますが、SI or SQとは「Social Intelligence=社会的知性」のことで人と人との心の結びつきに焦点をあて、人間同士の相互関係の中で社会的能力のことをいいます。
これは他者の感情を共感的に読み取って行動していく能力のことであり、人間関係をうまくやっていく上で欠かせない能力といえます。特にプロジェクトマネジメントにおけるリーダーシップには、SQは必須の能力です。

2.社会的知性の定義

人々を理解し、管理する能力。(1920年Edward Thorndike)
人間関係において賢く行動する能力。
人間関係において高い知性を発揮する能力。
人間が他者との関係において発揮する能力。
他人との関係をうまくやり、他人の協力を得る能力。
人と人が個人の枠を超えて相互に作用し合う場合にどんなことが起こるかを理解し、自他共に利益を得るにはどうしたらよいかを考えることができる能力。
社会という環境にうまく適応し、生き残っていくための能力。

3.社会的知性の高いリーダー

 社会的知性の高いリーダーは、まず相手と全面的に向き合い、相手との波長を合わせることから始める。そして、相手がどのように感じ、何故そう感じたかを認識し、相手が肯定的な気持ちになるように対応する。
 これにより、相手を調和の取れた精神状態に導くことができ、相手の前頭前野が活発となり、相手の創造的思考、知的柔軟性、情報処理などの能力を高めることができる。

・よいリーダー(社会的知性の高いリーダー)
  ビジョンを持っている
  話をよく聞いてくれる
  励ましてくれる
  情報を伝えてくれる
  勇敢
  ユーモアがある
  共感を示す
  決断力がある
  責任をとる
  謙虚
  権限をメンバーと共有する
  誠実

・悪いリーダー
  ビジョンがない
  何を言っても通じない
  人を疑ってかかる
  情報を隠す
  他人に威嚇的
  気難しい
  自己中心的
  優柔不断
  他人のせいにする
  尊大
  メンバーを信用しない
  不誠実

4.社会脳(人間関係における脳の働き)

・脳は、人間同士が相互にかかわりあって生きていくように神経回路ができている。
・他人と関わるとき、脳は否応なしに脳と脳が緊密につながる。
・脳と脳がつながることにより、相手の脳や身体に影響を与え、自分自身も相手から影響を受ける。
・お互いが脳に影響を及ぼし快や不快の感情を引き起こす。
・人間関係によって喚起された感情は、様々な生体組織を制御するホルモンの分泌をうながし、全身に広範囲な結果をもたらす。
・社会脳とは、他人や他人との関係に対する思考や感情や相互作用を統括する神経メカニズムを統括したものである。
・社会的相互作用には人間の脳を変えていく働きもある。
・他人からの感情の伝播は視床から扁頭体に直接行われる。
 裏の道、速く、自動的
   他人の感情(顔、身振り、声)−−−>視床−−−>扁頭体−−−−−−−>感情 
 表の道、遅い、制御可能
   他人の感情(顔、身振り、声)−−−>視床−−−>大脳新皮質(思考)−−>感情
・ラポールは、心の通じ合った満足感が得られ、相手の優しさ、理解、誠実さが感じられて親しい気持ちになる。これは、相手に対する共感、肯定的な感情の共有、非言語的動作の同調性があるときにおこる。
・ミラーニューロンは、感情を伝播させる。目で見た感情をその人の中に喚起させる。これにより、他者の感情、動き、感覚を自分の内部で起こっているように感じる。つまりミラーニューロンは、他人の感情を理解する力、つまり「共感力」だけでなく、また、相手の行動を観察し、模倣することによって何らかのスキルを身につける「学習力」とも関係がある。
・人間の脳は笑顔を好むようにできていて、不快な顔より楽しそうな顔を先に認識する。
・笑いのような快の感情では、セラトニン、ドーパミンやベータエンドルフィンなどが分泌され気分が良くなり、苦痛が和らいでストレスが緩和されたり、気持ちが良くなる。
・脳には、肯定的な感情を維持して活動に備えていこうとするシステムがあり、否定より肯定的な気分を抱きやすくしている
・ミラーニューロンは、豊かな共感をもたらす。つまり相手の感情を知り、その人の感情を自分も感じ、その人の苦痛を同情をもって反応する。
・人間の神経回路は、共感にもとづいて思いやりを発揮するようにできている。
・眼窩前頭皮質は、「思考する脳」と呼ばれる皮質、「感じる脳」として様々な情動反応に関る偏桃体、自動的な反応を司る「爬虫類の脳」である「脳幹」、という3つの主要な部分を神経で結びつけ、この緊密な結び付により、思考・感情・行動の迅速且つ強力な連携が可能となる。
・眼窩前頭皮質は、他人の気持ちを表情や声の調子から察知し、それを自分の経験とつきあわせお互い相手が自分に好意をいだいているか感じる。

5.社会的知性の能力

1)Daniel Golemanモデル

・社会的認識の能力
   相手の内面を即座に感知する能力。相手の感情や思考を理解する能力。複雑な社会状況を理解する能力
  原始的共感能力
   他人と一緒に感じる能力。非言語的な情動の手がかりを感知する能力
  情動のチューニング
   全面的に受容性をもって傾聴する能力。相手に波長を合わせる能力
  共感的正確性
   他人の思考、感情、意図を理解する能力
  社会的認知力 
   社会がどのように動いているかを知る能力
・社会的才覚(社交性の能力)
   社会的認識の能力をもとに、円滑で有効な相互作用ができる能力
  同調能力 
   非言語的なレベルで円滑に相互作用する能力。ジェスチャー、姿勢、アイコンタクト、声の調子、接触、テンポ。
  自己表現力
   自分を効果的に説明する能力
  影響力
   影響力をたくみに行使し、相手との関係を建設的に処理する能力
  関心
   他者のニーズを気を配り、それに応じて行動する能力

2)Karl Albrechtモデル(SPACE)
  状況認識能力(Situational Awareness、相手や社会的状況を認識できる能力)
  言語、非言語表現能力(Presence、言語、非言語レベルで円滑に相互作用できる能力)
  信用性(Authenticity、正直、信頼、倫理)
  自己表現力(Clarity、自分自身や考え、ビジョンを伝え、協力を得る能力)
  共感(Empathy、他人の思考、感情、意図を理解し、同じ立場で、好意と協調ができる能力)

3)ユーモアと笑い能力
   笑いとユーモアは社会的知性の能力。
   笑いは、対人関係の潤滑油である。笑いが起きると快楽中枢である線状体の側座核などでドーパミンの放出が増えこの領域の活性が高まる。また前頭前野や共感性に関与がある背側前部帯状回の活性かも高まる。また情動の中枢の扁桃体も活性化する。

6.社会的知性(SQ)能力の簡易自己評価

自分の平均的な行動パターンや傾向を思い浮かべながら、評価ください。
その評価結果から、自分の強み、弱みを見出し、社会的知性の能力向上に結びつけます。

評価点      1:ない  2:あまりない  3:普通  4:比較的  5:非常に

番号 社会的知性の能力              質問
1 原始的共感         表情、目配り、身振りや手振りから、相手の伝えようとしていることを読み取ることができる
2 チューニング        相手の感情にあわせ、傾聴することができる
3 共感的正確性       相手の感情、思考、意図を読み取るのは、得意である
4 社会的認知力       相手の気持ちや場の空気を読み取るのは、得意である
5 社会的認知力       人の社会的背景、価値観や文化を読み取りことができる
6 同調能力          人と接するとき、姿勢、声の調子、アイコンタクトや身振りを意識してコミュニケーションができる
7 同調能力          怒っている相手や悲しみに沈んでいる相手に適切に言葉をかけ、気持ちをほぐすのは、上手である
8 自己表現力         自分の気持ちや体験を気楽に、そして魅力的に話すことができる
9 自己表現力         自分の主張をわかりやすく述べ、相手を上手に説得できる
10 影響力           相手に応じて、対応の仕方や接し方を上手に変えられる
11 影響力           その人に合った有効的な説得方法をもちいて他人を動かす
12 関心            他人のニーズや感情に気を配り、それに応じて行動をすることができる
13 ユーモアと笑い能力  さりげない言葉や適度なユーモアで相手をリラックスさせたり、場を和ませるのは得意である
14 ユーモアと笑い能力  人と接するとき、笑顔や豊かな表情に心がけている
15 信用性           人に誠実に接し、信頼を大切にしている

7.笑いの力

笑いのメカニズム
@目や耳や皮膚や鼻から入ってきた情報が、脳幹にはいる。
Aそれらの刺激や情報が大脳辺縁系に送られ、遠い遠い過去から蓄積された記憶とする合わされる。それが人類にとって安全であった情報や刺激と合致すれば、心地よくなり、笑顔になる。危険な記憶が呼び戻されれば、不快となり、怒りや悲しみとなる。
Bそして、この感情の表現を、大脳新皮質という高度な機能を持ったところで行う。

    驚き−−−>(不快、不安、恐怖−−−>解消−−−>)安心、安堵−−−>喜び−−−>笑い
    楽しみの予知−−−>期待、安心、安堵−−−>笑い

笑いの種類
@心の底から、大笑いするもの
Aあいさつ代わりに「仲良くしようね」という合図になるスマイルというべき笑い
B相手の失敗や欠点を見つけて、優越感にひたるためにする笑い

笑いの効用
@笑いは脳の活性化とリラックスをもたらす。
A笑いは脳の血流量を増やす。
B笑いは認知症予防になる。
C笑うと頭が良くなる。
D笑えば元気なるし癒される。
E笑うと血液がさらさらになる。
F笑いはやる気を起こし体の動きを良くする。
G笑いで免疫力が上がる。
H笑いは痛みを抑える。
I笑いは血糖値の上昇を抑える。

8.仏教の教え


 ・自他一如(じたいちにょ)
   自分と他の一切のものとは、すべて密接不可分のつながりがあり、決して切り離して考えることはできない。
   すなわち、自分は他のすべての存在によって生かされていることを知り感謝の心を持ち、さらには、
   自分もまた他をすこしでも生かすことのできる存在であらねばならない。この世の中のものは何一つとして、
   自分だけの力でいきていくことはできない。互いに他の働きによって生かされている。

 ・因縁果報(いんねんかほう)
   因(原因) + 縁(条件) = 果(結果) → 報(影響)
   例えば、ここに花の種があるとする。当然ながら、種は、机の引き出しの奧に大事にしまっておいても
   発芽しない。土に埋め、適度な水をあたえ、十分な暖かさがあってこそ初めて発芽し、生長し、花を咲かせる
   のである。そして、花を咲かせることにより、それを見た人が「きれいだな」と思ったりするのである。
   これを因縁果報にあてはめると、「因」にあたるのは花の種であり、「縁」にあたるのは土や適度な水分や
   温度である。そして発芽・開花という現象が「果」であり、その花を見た人がきれいだなと思ったりすることが「報」である。
   他者(因)に社会的知性を発揮すれば(縁)、他者は肯定的な精神状態になり(果)、良いパフォーマンスを出す(報)。
 
 ・知恩報恩(ちおんほうおん)
   「恩を知ること」を「知恩」といい、「恩に報いること」を「報恩」という。
   私たちは、あらゆるものに支えられ、お蔭さまという心を知り、少しでも他のために役に立つことをする。
   ありがとう、お蔭さまの心である。

 ・吾唯足知(われただたるをしる)
   私は、『何事にも満足し、不満の気持ちを抱かない』ということだけを知っている。
   この世に存在する一切のものは、常に変化流転し留まることがない。ゆえにものごとにとらわれてはいけない。
   そしてよりよい果報を生むために努力をおしんではならない。

参考:Social Intelligence, Daniel Goleman
    Social Intelligence, Karl Albrecht
    SQ生き方の知能指数(Social Intelligence,Daniel Goleman),土屋京子訳
    役に立たない命なぞない,大塚日生
    社会脳,岡田尊司
    SQテスト,岡田尊司
    脳を活性化する「笑い」,中島秀雄
    笑う遺伝子,村上和雄
    笑みからチカラ,林啓子

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