アジャイルマニフェストのウォーターフォール型開発への適用

 アジャイル開発を導入した企業を対象とした米国におけるアンケート調査(2006年)によると、生産性向上、タイムツーマーケット、品質向上、コスト削減の観点から改善率が10%以上あった企業数は、それぞれ87%、86%、86%、63%とアジャイル導入効果は実証されており、シーメンス、GE、シスコシステムズ、マイクロソフト、グーグル、モトローラ、ロッキードマーチンなどの先進企業においてアジャイル開発がソフトウェア開発の主流となりつつあります。(1)
 アジャイル開発は米国では1960年代に始まり、トヨタ生産方式や野中氏、竹内氏の組織の知的創造についての影響などを受け、数々の方法論が出てきたが、これらすべてが信頼できるソフトウェアをより迅速に作ることを狙っています。2001年にアジャイル開発のリーダー達で構成されるグループが、アジャイルの4つの中核的価値「アジャイルマニフェスト」とそれを支える12のアジャイル原則を宣言しました。チームで高い成果をあげるためのアジャイルの4つの中核的価値とは次のようなものです。(2)(3)
    ・個人とその相互作用
    ・動くソフトウェアの提供
    ・顧客とのコラボレーション
    ・変化への対応
 これらの価値にどのように取り組むかは個々のアジャイル開発方法論によって若干異なるが、どの方式にも価値を1つ以上高めるための固有のプロセスと手順が定められています。
 ウォーターフォール型開発においても、4つの中核的価値は、実践上価値があり、現在のウォーターフォール型開発の改善や今後のアジャイル開発への移行に参考になると思い、4つの中核的価値のウォーターフォール型開発へ適用について述べます。

1)個人とその相互作用
 個人とその相互作用によって高い成果を上げるためには、チームのすべての人に対する尊敬の気持ち、全員でチームを支えるという信頼感、対立する考えを自由にやり取りする雰囲気、良いコミュニケーション、すべての情報、行動、決定の透明性、チームとチームの目標に対する貢献が要求されます。このようなチームを作り上げるためには、チームリーダーは指示管理型のマネジメントスタイルではなく、チームの自主性を重視し、チームがより効果的に生産的な活動できるよう障害を取り除いたり、コーチングやメンタリングなどをとおした支援型行動をするコラボレーション型リーダーシップサーバントリーダーシップ)が重要です。アジャイル開発では、高い成果をあげるチームを形成するために、個人とその相互作用に価値をおいているがウォーターフォール型開発にも十分価値があります。

2)動くソフトウェアの提供
 アジャイル開発では、正しく機能するソフトウェアを少しずつ確かめながら、一定の間隔で顧客に提供することを重要視している。アジャイルチームは決められた期間の中で1つずつ重要な機能から取りだし、設計、開発、テストを連続的に行い、すべてのテストに成功し、顧客が操作できる段階になって初めて完成したことになります。動くソフトウェアの完了の定義の中に、統合テスト、パフォーマンステスト、および顧客による承認テストも含めます。ウォーターフォール型開発においても、顧客にとっての優先順位を決め重要な機能から開発していく開発の仕方や、顧客と合意した受入基準を明確にしたテストをすることなどに適用できます。
 
3)顧客とのコラボレーション
 プロジェクトの成功は、顧客のプロジェクトチームへの参画が重要な役割を果たす。顧客の要求事項とその必要性を正確にチームが理解し、要求どおりに開発されているかどうかを顧客と一緒になってレビューするといったように顧客の日常的な参加が重要です。これにより顧客の意図が十分反映された成果物を作成可能となります。アジャイル開発では顧客との緊密なコラボレーションの方法や仕組みが導入されています。ウォーターフォール型開発においても、日常的な顧客とのコラボレーションを見直し、より協調性を推進するような方法や仕組みを導入することによりプロジェクトの成功確率をあげることができます。

4)変化への対応
 変化に対応することは、顧客を満足させ、ビジネス価値をもたらす製品を作成するうえで重要です。製品やプロジェクトの要件は、ソフトウェアの開発中に変わることが多くあります。本来のプロジェクトが、期限内、予算内で、かつ計画されていたすべての機能を組み込んで完了したとしても、当初顧客が求めていたものとは違うということから、顧客が満足しないことが多々あります。アジャイル開発では、プロジェクトを通じて顧客からのフィードバックを求めるので、製品の開発を進めながら、フィードバックや新しい情報を反映できます。ウォーターフォール型開発においても、開発過程における顧客とのコラボレーションを強化するような方法や仕組みを導入するにより、価値の向上する変更に対応することが可能となります。

参考資料
(1)Agile Development:A Manager's Roadmap for Success,VersionOne
   http://www.technical-insight.com/my_samples/Agile_Managers_Roadmap.pdf
(2)Agile Manifesto, http://www.agilemanifesto.org
(3)The Software Project Manager's Bridge to Agility,Michele Slinger & Stacia Broderi
     
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