サーバント・リーダーシップ(Servant Leadership)

サーバント・リーダーシップとは 
 サーバントリーダーシップは、AT&Tマネジメント研究センター長を務めたロバート・K・グリーンリーフ氏が提唱するリーダーシップ論です。同氏は1970年の著書「The servant as leader」の中で、以下のように述べています。
 「サーバントリーダーは、何よりもまずサーバント(フォロワーに尽くす人)なのである。まず、初めにフォロワーに尽くしたいという自然な感情があり、フォロワーに尽くすことが第一なのである。そのうえで、導きたいという願望に駆られるのである」。
 つまりサーバントリーダーは、自分のビジョンやゴールに向かって一緒に付いて来てくれるフォロワーに対し、「尽くしたい」という思いを最初に抱きます。
 それゆえに、フォロワーに必要なものを提供しようと常に努め、フォロワーに影響力を行使してゴールに導いていきます。このように利他の心、フォロワーを思いやり、フォロワーに尽くす心で臨むことが、サーバントリーダーシップの実践哲学です。
 ロバート・K・グリーンリーフは、これを「Servant First」(相手に尽くす気持や奉仕の精神が最初に来る)と表現しています。リーダーがそうした実践哲学に立脚してこそ、フォロワーは絶大な信頼を寄せ、喜んでゴールへ同行してくれるという訳です。

 仏教家としても知られる稲盛和夫氏は、次のように講演しています。人の心の中では、「自我」と「真我」が葛藤している。自我は自己愛に支えられ、しばしば虚栄、嫉妬、強欲、さらには猜疑心や憎悪を伴う。対して真我は慈悲に満ちた高次の心であり、愛と誠と調和のつくる真善美を求める。自我は「利己」、真我は「利他」の心と言える。人を慈しみ助けたい心と、自分さえよければという手前勝手な心が一人の中に同居している。そして「利他の人」であることがリーダーの条件である、と。稲盛氏のいう「利他の心で行動するリーダー」はサーバントリーダーでしょう。

 富士ゼロックス最高顧問の小林陽太郎氏は2009年に行われた平城遷都1300年記念経済フォーラム「2010年からの経済社会 日本と東アジアの未来を考える」の中で「東アジアの未来と日本の役割」というテーマで基調演説をされましたが、その中で「現在、米国が経済危機に陥り、EU(欧州連合)が新しい団結を見せる中で、東アジアが世界の成長エンジンとして注目されている。特に中国、インドはこれからも成長を続けるだろう。変わり続ける東アジアと日本はどういう関係を結ぶべきか、どのように共存していくのかは、極めて大きな課題である。日本には確かに経済力、技術力がある。しかし私は、日本にリーダーシップは期待されていないと思う。期待されているのは
サーバントリーダーシップ(奉仕するリーダーシップ)であり、その中心概念は謙虚さである。謙虚さは、日本の歴史と文化に対する誇り、白信を育てる中で、自然に生まれてくるものである。我々は人間力を強くしなければならない。」とサーバント・リーダーシップがこれからの日本の東アジア外交でとしても重要であると述べられています。

サーバントリーダーシップを実践している米国企業
 米国では、スターバックス、サウスウエスト航空、フェデラルエクスプレス、ウォルマート、TDIなど優れた企業(フォーチュン100ベスト企業、マルコム・ボルドリッジ国家品質賞受賞企業、市民賞賛ベスト企業など)の多くがサーバント・リーダーシップを企業活動の基本理念に採用し、サーバント・リーダーシップを全社員が実践して成果をあげています。

サーバント・リーダーの実践哲学(利他の心で実践)
   「リーダーはメンバーのために存在し、メンバーに尽くす」
   「まず奉仕する(尽くす)」(Serve First.)          
   「相手に奉仕したい(尽くしたい)」(Desire to Serve.)        
   「自分より相手を重視」(Focus on Others.)        
   「相手をコントロールするより奉仕(尽くして)して導く」(Service rather than Control)

サーバント・りーダーは
  まず相手のニーズを特定し、それに応えようとする
  また相手を愛したり、助けることで人生の意義と満足を得る
  自分のことより相手に奉仕する(尽くす)
  奉仕(尽くす)するとは   傾聴、支援、相手の成長(Listen,Help,Develop)
  相手とは顧客、メンバー、コミュニティ、ステークホルダー

サーバント・リーダーシップの特性
  ・利他心(相手に尽くし奉仕することにより信頼を得ること)
  ・気づき(自分自身の感情と行動を理解し、相手や状況を理解すること)
  ・癒し(自分や相手のストレスや困難、リスク要因を見つけ出して解決すること)
  ・傾聴(心を開いて、相手の要求や課題を聴くこと)
  ・共感(相手の立場で、相手の感情・思考・意図を理解すること)
  ・説得(強制ではなく相手を納得させて、自発的な行動を促すこと)
  ・概念化(目指すゴールやビジョンの具体的なイメージを描くこと)
  ・先見性(過去から学び、現実を見据え、未来への道筋を示すこと)
  ・スチュワードシップ(信頼と強い責任感の下で黙々と奉仕すること)
  ・成長へのコミット(相手の成長を支援すること)
  ・コミュニティー作り(チームワークと協調を促進すること)

サーバント・リーダーシップの効果
  ・利他心、思いやりの心の実践力
  ・気づきの能力
  ・傾聴力、共感力、質問力
  ・高いモチベーションを引き出す能力
  ・自分や他者が抱えるストレスや困難への対応力
  ・説得力
  ・対人関係の能力
  ・ビジョン構想力
  ・リスクや問題の分析思考力
  ・目標達成のための組織作り
  ・相手の成長引き出す能力
  ・協調性とチームワークの推進

プロジェクト担当者のサーバント・リーダーシップが向上することにより、プロジェクト・リーダーシップが向上し、プロジェクトマネジメントに役立ちます
 プロジェクト・マネジャーはプロジェクトの組織において、決められたスケジュールとコストの制約のもと要求される品質を目指して、いろいろなステークホルダーとの交渉やメンバーとの共同作業を通じて,プロジェクトを成功に導くのに重要な役割を担っていますが,その中でリーダーシップは、プロジェクト成功のために必要かつ重要な能力です。
 多くのプロジェクトで採用されるプロジェクトの組織形態はマトリックス型組織で実施される場合が多くあり、一般的にプロジェクト・マネジャーは、人事的な権限があまりない中で、強いリーダーシップを発揮する必要があります。そのような環境のプロジェクト・マネジメントにサーバント・リーダーシップを導入することにより、リーダーであるプロジェクト・マネジャーはフォロワーに何よりもまず尽すことを実践し、皆に信頼され、プロジェクトを強いリーダーシップで導いていくことができ、プロジェクトの成功をもたらすことができます。

 適用する主なPMBOKの知識エリアは
   統合マネジメント
   スコープマネジメント
   人的資源マネジメント
   コミュニケーションマネジメント
   リスクマネジメント
   調達マネジメント
プロジェクト・リーダーシップ特性(Dulewicz and Higgs’s 15 Leadership Competencies)とサーバントリーダーシップ特性
  EQコンピテンシー
   自己認識(Self-awareness)
(気づき)
   メンタルタフネス(忍耐力) Emotional Resilience)
(癒し)
   直感力(Intuitiveness)
(先見)
   感受性(Interpersonal Sensitivity)
(傾聴・共感)
   影響力(Influence)
(説得)
   モチベーション(Motivation)
(気づき、癒し)
   誠実(Conscientiousness)
(スチュワードシップ(達成志向))
  IQコンピテンシー
   クリティカルシンキング(Critical Analysis and Judgment)
(先見(問題分析力)
   ビジョン構想力(Vision and Imagination)
(概念化(ビジョン構想力))
   戦略的視点(Strategic Perspective)
(先見(戦略的視点))
  MQコンピテンシー
   資源のマネジメント(Resource Management)
(資源マネジメント)
   コミュニケーション(Engaging Communication)
(コミュニティ
   エンパワメント(Empowering)
(成長、資源マネジメント)
   育成(Developing)
(成長)
   達成志向(Achieving)
(スチュワードシップ(達成志向)

サーバント・リーダーシップ入門研修
 チームのやる気を引き出し、創造性を発揮し、高い成果を上げるチーム(自己組織的チーム)へ導くリーダー
 シップのあり方をサーバント・リーダーシップの考え方を通して理解する。

サーバント・リーダーシップ実践研修
 プロジェクトマネジャー
 プロジェクト・リーダーシップ強化のためのサーバント・リーダーシップ研修でリーダーシップを向上できます。
 部下を持つマネジャー
 部下を持つマネジャーはサーバント・リーダーシップ実践研修でリーダーシップを強化することができます。
 営業
 ソリューション営業リーダーシップ強化研修でソリューション営業リーダーシップを向上できます。

宮端清次(はとバス元社長)サーバントリーダーシップ実践例
 倒産寸前のはとバス社長に就任。役人らしからぬ攻めのコスト改革・意識改革を断行し、同社を再建。短期間で復配に漕ぎつけた手腕は“経営幹部の行動学の鑑”とビジネス各誌で話題となる
  社員のやる気を引き出す
  ひとを動かしかったら、まずトップが動く
  (やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ)
  現地現場主義(バスに乗り込み顧客に挨拶、自ら顧客を経験で生の声)
  社長室の撤廃
  逆ピラミッド組織にする
  お客様第一主義の徹底
  CS/CDの研修実施(研修重視)

上杉鷹山サーバント・リーダーシップ実践例(1751〜1822)
  農民への愛情(民を思い民を愛する至情 )(利他)
  藩士の上下関係なくまた農民の意見をよく聴く(傾聴/共感)
  民富のための改革(大倹約令−民富)(概念化/先見)
  藩士の適材適所の配置(スチュワードシップ)
  藩の状況や自己の限界を明示(気づき)
  協力要請(コミュニティ)
  五什組合(5人組、10人組、一村、組合村の助け合い)(コミュニティ)
  農民の扱いは父母のごとく、厳しさと優しさ(癒し)
  「してみせて、言って聞かせて、させてみる」、興譲館設立(成長)
  大倹約令の実行を自らが率先して倹約することで、大倹を断行した (説得)

サーバント・リーダーシップは、ダニエルゴールマンのEQリーダーシップの特性と近いものが多くみられる。
サーバント・リーダーシップ特性とEQリーダーシップ特性の関係性
 1)傾聴--->共感(社会的認識)
 2)共感--->共感(社会的認識)
 3)癒し--->感情のコントロール(自己管理)、他者の育成(人間関係管理) 
 4)気づき--->感情の自己認識、正確な自己評価、自己確信(自己認識)、組織認識(社会的認識)
 5)説得--->影響力(人間関係管理)
 6)概念化--->ビジョンのあるリーダーシップ(人間関係管理)
 7)先見力--->ビジョンのあるリーダーシップ、変革へのカタリスト(人間関係管理)、楽観(自己管理)
 8)スチュワードシップ--->信用性、コミットメント、達成志向、イニシャティブ(自己管理)、サービス志向(社会的認識)
 9)人々の成長にコミットする--->他人の育成(人間関係管理)
10)コミュニティーづくり--->チームワークと共同作業(人間関係管理)

ロバート・グリーンリーフ(Robert K Greenleaf)

  経歴: (1904〜1990)
   AT&T社38年間勤務, 主に管理者教育に従事。
   その後25年間、SLコンサルティングに従事
   1958年「東方巡礼」を読む
   1970年代にサーバント・リーダーシップが認知され始める
   Greenleaf Center for Servant Leadership設立
  影響された出来事:
   1958年 ヘルマンヘッセのアジア旅行記を綴った短編小説「東方巡礼」(自分らしい生き方を求めて巡礼の旅に
   出た話)リーダーシップは「相手に奉仕したい」という思いが根本にあると理解した。
  著書:
   The Servant as Leader (1970)
   The Institution as Servant (1972)
   Trustees as Servants (1972)

参考
    Greenleaf Center for Servant Leadership
    The Servant as Leader(Robert K. Greenleaf)
    Practicing Servant Leadership,Larry C. Spears and Michele Lawrence,JOSSEY-BASS
    World’s Most Powerful Leadership Principle (Hunter, 2004)
    The case of Servant Leadership(Keith,2008)
    Primal Leadership,Daniel Goleman,HBSPress
    It's not the Coffee: Lessons on Putting People First from a Life at Starbucks ,Harward Behar
    サーバント・リーダーシップ、ロバート グリーンリーフ著、金井嘉宏訳
    サーバント・リーダーシップ入門、池田守男、金井嘉宏著
    PMBOK-V4、PMI
    プロジェクトマネジメントハンドブック(EQリーダーシップ)、竹腰重徳、オーム社
    Choosing Appropriate Project Managers (Turner & Muller,2006)PMI
    西郷隆盛生誕180周年・没130年記念講演「人生について思うこと−心に美しい花を咲かせよう」稲盛和夫(2007)
    平城遷都1300年記念経済フォーラム基調講演「東アジアの未来と日本の役割」小林陽太郎(2009)

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